欲望
■ ■ ■
小首をかたむけ落ちた前髪の、
その奥からのぞく瞳の色が、雲雀はすきだった。
「入る時はノック、常識だろう」
チラリ、机から顔を上げた沙良が淡白に告げる。
一瞬向けられた瞳はすぐに下へ向けられて、雲雀は胸の奥が燻るようにうねるのを感じた。
「…沙良」
「何。書類なら出来次第届ける、そう伝えた筈だ」
『仕事中』の彼は、冷たく言い放つ。
その寸断的な口調も艶のない声音もすきじゃなくて、
雲雀は一歩近づいた。
「!ひば」
「沙良」
開かれた金色の瞳に、自分の姿を映り込ませる。
握った手首から落ちたペンが、机をころころと転がり止まった。
「…雲雀。仕事中だよ」
「嫌だね」
少しーほんの少しだけ、『仕事中』の彼の目が緩まる。
そのことをわかっていて、雲雀は沙良の頬に手を添えた。
「…雲雀、」
「わかってるよ」
咎めるような声の響きに、口早に答える。
そのまま唇を重ねても、彼は何も言わなかった。