忠告
■ ■ ■
「沙良」
綱吉の呼び掛けに、沙良は緩く振り返った。
「沢田綱吉。どうかしたのか?」
わずかに首をかたむけて、静かに笑む彼。
その表情を一瞬探るように見つめー綱吉も同じく微笑んだ。
「…いえ。ただ聞きたいことがあって」
「何か?」
「…雲雀さんと、骸」
唐突な2人の人物の名前に、けれど沙良は眉ひとつ動かしはしなかった。
「雲と霧。どうかしたのか?」
それが、と目でうったえる沙良に、
数秒後、困ったような笑みに変わる綱吉。
「…余計な拗(こじ)れは、あまり招かないで欲しいんですが」
「何を言っているかわからないな」
黒い前髪の奥、きらりと金の瞳を光らせ、
彼は決然と口を開く。
「僕は、何もしていないよ。…綱吉」
あと、敬語はいらないって前も言ったよね。
付け加え去っていく、その小さな後ろ姿を綱吉は眺める。
揺れる漆黒の髪に、ふわりと舞う白いフレア。
本来着用する性別ではない彼に、
しかしそのゴシック調のベルラインワンピはーよく、似合っていた。
「……知りませんよ、俺は」
その気は微塵もないはずの自分でさえ惹かれてしまう、
そんな己の心中に気が付き嘆息する。
「何が…どうなっても」
呟かれたアジトの片隅、
廊下に低く響いた声音は、誰に届くこともない。