背徳
■ ■ ■
これを背徳と呼ぶのなら、
人間なんて全て背徳だ。
「……沙良」
名を呼べば、ゆらり、揺れる金色(こんじき)の瞳。
その漆黒の髪に手を伸ばして、軽くすくえばこんなにも、そうあっけなく緩くスルリと己の手をすべり抜けてしまうのに。
どうしてーこの瞳が欲しいなどと、
そんなことを思ってしまったのだろう。
「…なあに?」
優しく、甘く彼は微笑む。
蜜によく似たー毒を含んだまなざしで。
「どうかしたの?……骸」
名を、呼ぶなとー
そう告げることは、不可能だから。
骸はただ、小さな身体を強く引き寄せ、
チラつく影を掻き消そうとするかのように、その唇を塞ぎ奪った。