スクアーロの場合
■ ■ ■
「う"お"ぉい雛香!!!」
ドンガッシャーン!!
「うわあスクアーロ!」
「まーたミーの部屋のドア破壊しましたねー。ふざけんなですよまじアホ隊長」
「うっせーぞフラン!!てめえちゃっかり雛香連れ込んでんじゃねえぞぉ!」
「連れ込んでなんかいませんよー、口説いてたんです」
「ふざけてんじゃねぇぞぉお!!」
「いやむしろ口説かれてた側ですかねー」
「はいストップフラン、適当なこと言うなっての」
「適当じゃないですよ、ミーは」「う"お"ぉ"い!!んなことはどーでもいい!!」
「……隊長じゃないっすか1番はじめに話広げたのー…」
突如、剣の一振りとともにフランの発言をぶった切ったスクアーロが、がっしりと雛香の襟元を掴む。
その横、フランは呆れきったように目をぐるぐるさせて、雛香が猫か何かのように引っ張られるのを眺めていた。
「…ちょっ!おま、待てってのスクアーロ!襟が伸びる襟が!」
「うるせぇぞぉ"!」
「……で、ココは?」
「武器庫だぁ"」
「なるほどイエス、それはさすがにわかってる。俺何年ボンゴレにいると思ってんのさ、それくらいは周りを見て判断できる」
「あいっかわらず口がよぉく回る奴だな。あのクソボスにも、それくらい口きいてもらいてぇくらいだ」
「ザンザスも相変わらずか」
はあっと息を吐き出したスクアーロに、くすりと雛香が相好を崩す。
「まったくだぞぉ"。んで、てめぇはなぜ今さらここに来たんだ」
「ん?」
「とぼけるんじゃねぇぞ。わざわざヴァリアーに足運んできた、その目的は何なんだ」
「目的って」
ぎらりと鋭く目を光らせ、壁際へと雛香を追い詰めたスクアーロに、対する青年はただ困ったように微笑んだ。
「俺、ほんとにコレ渡しに来ただけなんだけどなあ」
「あ"あ"?」
眉をひそめたスクアーロの手の上、ころんと転がり落ちるのは。
「…ヘルリング、じゃねえかぁ"」
「うんまあ。それ、フランに返しといてもらえないかな」
相変わらず、貼り付けたように困った笑みを口元に刻んだ雛香を見やり、スクアーロはいっそう眉間のシワを深くする。
「…なんでさっき返さなかった」
「いやー、返しそびれた」
「…アイツに何されたんだ。言ってみろお"」
「いやそこは俺とフランのプライベートって事で」
「アホガキがぁ"」
スクアーロは唸ると同時、その手で雛香の頭をぐっと押さえて上向かせた。
意図の見えないスクアーロの行動に、突如額を押さえ込まれた雛香が目をぱちくりさせる。
「…え、何スク、」
「ったくお前はなあ"、」
何もかも1人でしょい込むんじゃねえぞ。
雛香が目を見開くと同時、
スクアーロの銀髪が2人の顔の間を覆った。
「……な、に。いきなり」
「てめぇが変な顔してるからだぞ」
顔が離れた途端、雛香が顔を赤くする。
その前髪をさらりとかき分け、何でもない事かのように、スクアーロは雛香の額に軽く唇を落とした。
「っ、ちょ、まっ」
「アホガキがあ"。そうやって隙だらけだから、あちこちの輩に狙われるんだぞぉ"」
「…意味、わかんね」
「情報は聞いてるぞ」
羞恥から来るものではない、明らかに暗い何かをチラリとよぎらせ俯いた雛香の顔を、スクアーロは自身の胸へと引き寄せる。
一方の雛香はされるがまま、スクアーロには見えない角度でぐっと唇を噛み締めていた。
「ミルフィオーレの連中に、しつこく狙われてるらしいなあ"」
「…困ったことにねえ。俺大人気みたい」
「ったく、雲の野郎は何してやがんだぁ"」
わざとらしく軽い調子で言葉を重ねる、その頭を抱き寄せたままスクアーロはため息をつく。
「いや別に、まじで狙われるのは大丈夫なんだって。そりゃ俺は将来有望な門外顧問だから、今までもあちこちの刺客に狙いかけられては狙われてきたし」
「自分で有望とか言うかぁ"お前は」
冗談混じりの雛香の言葉に、スクアーロも呆れた調子でを鼻を鳴らす。
だが、次の瞬間、雛香の声はさらに一段と小さくなった。
「……ただ、最近…」
「あ"ぁ"?」
「…いや、なんでもない。てかいい加減離れろスクアーロ」
「言いかけといてやめるんじゃねえぞお"」
「いやいや、そこはいいからとりあえず距離を取ろうぜ距離を。武器庫で男同士身を寄せ合うとか、マジでムードの欠片もないから」
「うるせぇ奴だ」
そう言いながらも、スクアーロは腕を離す。
一歩身を引いた雛香へと、そのまま鋭い視線を向けた。
「……無理に言えとは言わねぇがなあ"」
「……。」
「言いたい事があんなら、全部吐いちまえ」
「……スクアーロ」
一瞬、微かに目元を歪めた雛香は、だが次にはもういつもの顔に戻っていた。
「……うん。ありがと」
「それからだなあ"、あのクソボスにも顔見せにいっとけえ"」
「…言われなくても」
「雛香」
青年は小さく笑い、そのまま横を通り抜けようとする。
行きかけたその腕をぐっと掴み、「えっ何」と振り向きかけた雛香の耳元へ、スクアーロは口を寄せ低く唸った。
「……ヴァリアーは、いつでもお前を待ってるぞお"」
「はっ…何それ。ははっ」
腕を放した途端、雛香はおかしそうに笑った。
武器庫に連れ込んでから初めて見る、心から笑っているその様子に、スクアーロも自然と口元を緩める。
「何それ。スカウト?」
「ベルの奴に、会うたび散々言われてるだろお"」
「まあね。でもスクアーロに言われたのは初めてだから、ちょっとびびった」
冗談でも嬉しいよ。ありがと。
そう言い無垢に笑った雛香が、今度こそくるりと背中を見せる。
「じゃあね、スクアーロ。フランにヘルリングさんきゅ、って伝えといて」
「…そういえばてめぇ、なんでフランのヘルリング持ってやがんだぁ"」
「?なんでって、使ったからに決まってるだろ?」
「誰がだ」
「??…だから、俺が」
「……お前、ヘルリングも使えるのかぁ"」
「は?使えるよ、俺霧属性も扱えんの、知ってるだろ?」
「……そうじゃねえぞお"、このバカが…」
きょとん、と首を傾げる相手に、
スクアーロは改めて、この次期門外顧問の実力の底知れなさを思い知るはめになった。