血に満ちた契約(2)
「……抵抗しないんですね」
「……。」
「僕としてはその方が有難いですが」
ぐっ、と手をつけば、柔らかなクッションは容易く沈んだ。
その真横、ソファに横たわり動かない少年の目は、やはりさっきと何も変わらぬ色で真上の骸を見上げていた。
赤。冷めた赤。冷め切った深紅色。
自分より遥か年下には思えぬ、冷静で凪いだ瞳だった。不釣り合いだ。こんなにもあどけない顔立ちでありながら。
「……何する気」
「君と契約させて頂きます」
やっと口を開いた彼の、その喉元に三叉槍を突きつける。
先端を、ヒタリと当てる。
「契約……ふうん。良さげな物では無さそうだ」
「そうですね。貴方の体を乗っ取らせて頂きます」
「は……気持ち悪。何それ、あんたに何の利があるの」
「君が何を企んでいるのか、それを暴かせてもらうんですよ」
「何も企んでなんかいないよ。ていうか何それ、俺の頭の中まで覗けるって言うの」
「深層心理まで同調できれば、不可能なことではありません」
「……ふうん」
少年が目を細める。赤い光が鋭くなる。
「それは、いやだな」
「……ほう」
三叉槍を持つ手に力を込め、骸はうっすら口角を上げた。
「やっと尻尾を出しましたか」
「誰だって嫌だろ、頭の中覗かれるなんて」
ソファに転がる幼い少年、その上に跨り武器を突き付ける紫頭の青年。
側から見たらどんな物騒な状況だろうか。
そんな場に合わない考えがちらりと頭を掠めていったのは、眼前の赤が場違いなほどに綺麗だったからかもしれない。
「隙有り」
「!」
手元。衝撃。
カランカラン、と三叉槍が床を転がる音。
喰らった攻撃は大したものではなかったが、骸は顔をしかめて舌打ちをした。
「……こんな子供にやられるとは、僕も鈍ったものですねえ」
「誰が子供だって?」
上半身だけ起こしたまま骸がぱたぱたと軽く手を振れば、ぐっと少年は身を起こす。
「俺をあんま甘く見ないでよ」
「おっと……ッ?!」
ぐい、と伸びた腕に開いたシャツの襟元を掴まれ、さてそこからどう来るのかと、身構えつつも興味を覚えて動かずにいた、そこへ――。