心のウラと駆け引き(2)
「さーて、ひと息ついたしオレは帰らせてもらおうかな」
「ありがとうございました、ディーノさん」
「そんな頭なんか下げんなって!オレとツナの仲じゃねーか」
ニッコリ、というよりはニカッ、という擬態語が似合いそうな顔でディーノが笑う。
その様子を横目で見やりながら、やっとこれで終われると、リネイアは心中ため息をついた。
無駄にふかふかしたソファから腰を浮かせ、ツナと同様扉まで見送ろうと(あくまで一応の礼儀として)、リネイアがディーノの後ろへ並ぼうとした、
その時。
「あ、ツナ、オレちょっとリネイア借りてもいい?」
ガシッ、と腰を掴まれて、リネイアは危うく奇声をあげそうになった。
「……え?」
「オレ随分警戒されてるっぼいしさ!せっかくツナが紹介してくれたんだし、仲良くなりてーな、って」
「は、なんで、」
「ってわけでリネイア!お前玄関あたりまでちょっと付き合ってくれよ!」
「は、」
誰がお前と仲良くなんか、言いかけ顔を上げた瞬間に、金色の目と目が合った。
――思わず、口をつぐむ。
蜂蜜色の潤みがちの瞳は、しかしその目に有無を言わさぬ冷気を宿らせ、こちらを静かにに見下ろしていた。
殺気。
なるほどね。言葉を呑み込み、睨み上げる。
先ほど一瞬でも怯んだ自分が、それはそれはひどく悔やまれた。
馬鹿馬鹿しい。何が仲良くなりたいだ。
結局のところ、マフィアというものは、否、マフィア内の愚かな人間というものは、皆同じなのだ。
底を見透かせず疑ってかかり、平気でその手をいくらでも汚す。他人など、どうとでもしてしまえるのだ。
たったひとつの例外――沢田綱吉を、除いて。
「いいですよ。……玄関までお見送りします」
「え、リネイア、」
「ってこいつも言ってるし!じゃあまたな、ツナ!」
「綱吉」
振り返れば、不安そうな茶色の瞳が見えた。
隠しもせず、その顔に如実に心配の色が浮かんでいるのを見て、ほんの少しだけ心が緩む。
バカだな、綱吉。こんななんの足しにもならないガキ1人、何があろうとも少しの損にもなりはしないだろうに。
「大丈夫」
「リネイア」
「待ってて」
俺はここに、帰ってくるから。
不安げな綱吉の顔に背を向け、ディーノに腰を掴まれたまま、リネイアは廊下へ歩み出た。