黒に堕ちる | ナノ

かなしい再会
6thバトル。
対峙するチェスの姿に、アルヴィスは眉をひそめた。


「…フードを、取らないのか」
「……。」
無言。
口を開かない相手に、アルヴィスはただ肩をすくめた。
まあ別に構わない。相手が何をしようとも誰であろうとも、
自分は、ただメルヘヴンの平和のために闘うだけ。

「13トーテムロッド」
「…ゴシックダガー」

一瞬にして距離を詰めれば、
弾かれ合う、銀の武器。
「…なかなかやるじゃないか」
「……。」
一旦、後方に下がる。
相手も同じように後ろへ飛び、黒いダガーをかまえた。
その姿に、眉をひそめる。
なぜだろうか。
先ほどから、妙な感覚を覚えるのだ。

「…13トーテムポール!」

胸奥の感覚を消し去るように、アルヴィスは轟音を立て迫る石柱の数々を出現させる。
次々と生み出されるそれは、動かない相手へランダムに迫り、
しかし。


「リリア」


短く呟かれた言葉とともに、
ふわり、浮かび上がるフードの相手。

「…ガーディアンか」
小柄なその背中を空で掴むのは、羽を広げた黒髪の少女。
どことなく人形めいたその容貌は、美しくもあり謎めいてもいる。

柱の届かない距離まで舞い上がった相手は、
なんとその位置からアームを発動させた。

「レヴィスタのロンド」
「?!」

途端、頭上から降り注ぐ黒い刃の数々。
それらをガーデスで弾き、アルヴィスは唇を結んだ。

隙が無い。

さすがはナイトクラス、というべきか。
カルデアでもらったアームを発動させようと試みているのだが、いかんせんその余裕がない。
魔力を練る時間と集中力を得るためには、相手の動きを止めるしかない、のだが。

仕方がないか。

小さく舌を打ち、アルヴィスは指輪をはめた右手をチェスに伸ばした。
「スウィーリングスカル!」
「っ?!」
かちり、ガーディアンをしまい地に足をつけた相手がそのまま硬直する。

今だ。

身体を走る激痛に眉をひそめ、アルヴィスがポケットの内のア・バオア・クーに魔力を練り込んだ、その時ー。


「…ッ、ホーリー・ドール!」


叫びとともに、放たれる閃光。
とっさに顔を覆ったアルヴィスの前で、肩で息をしながらダガーをかまえるナイト。
「…ホーリーアームか」
スウィーリングスカルを前にして、まさかの。

強いな。
そう思った時、またも妙な感覚を覚えた。

今の、彼女の声。
そう、彼女、だ。
今までは声が小さかったため聞こえなかったが、先ほどの大声からして相手は間違いなく女だ。それも、同い年くらいの。


…違う、そこに違和感を感じてるんじゃない。


自分の内を走る感情の意味がわからず、アルヴィスは顔をしかめた。
なんだ、これは。


なぜ、懐かしいだなんて思うんだ。


「よそ事?」
「!!」
突如ふところに飛び込んできた影に、反射で応戦する。
手から武器が離れる感触、弾かれ地に転がるロッド。

しまった。

「…余裕、だね」
「…ッ」
小さく呟かれたその声に、嘲りや皮肉の調子は無い。
だがこのチャンスを逃す相手ではないだろう。
次に来るであろう攻撃に、アルヴィスは両手で前を庇った。

が。


「……?」


両腕を下ろす。
まずまちがいなく、ダガーの攻撃が来ると思ったのだが、何も起こらない。
訳も分からず瞼を上げたそこで、
なぜか相手はダガーをこちらへ向けたまま、固まっていた。


「…ごめん、なさい」


目を、見ひらく。
その声に、その声音に、


今、やっと思い立った。


「…僕には、選べないんだ」


はらり、フードが外れる。
その下、現れた相貌は、

自分がよく知っている、あの少女の面影を残していて。


「……ノア?」
「…アルヴィス」


嘘だ。
嘘だ、
そんな、わけがない。


揺れる黒髪の下、
あの頃と変わらない大きな黒い目をした彼女は、
その表情をくしゃりとゆがめ。



「……僕の、負けだ」



地に落ちたダガーが、
ひどく空虚な音を立て転がった。









『かなしい再会』






×
- ナノ -