黒に堕ちる | ナノ

再会
「…よっと」
アンダータで辿り着いた、レギンレイヴ城。
の、屋根の上。
「うわ」
金属のぶつかり合う独特の音。
第1試合が、既に始まっていた。



「ええーっと、ポズンポズンっと」
生で試合が見られるのも悪くは無いが、今はそれより先に用事である。
なんせあのファントムの使いっぱ、ならぬ私用である。何にしろ早いところ済ませたい。
更に実を言うと、ノアは結構ポズンが好きだったりする。
「…いた!」
激しい接近戦を繰り広げる、そのすぐ横。
タンッと軽く屋根を蹴り、ノアは急降下した。そのままポズンの真横にふわりと着地する。
「……ッ?!ノア様?!」
驚き顔のポズン。可愛いなあ。
「すまない、審判中に関わらず。ファントムから至急頼まれ事があって」
「いえ、ファントムからのご用事でしたら…」
慌てふためき出すポズン。
だがノアは目を細め、
「ええっ?!」
「ちょっとごめんね」
ポズンの腰を引っ掴み、その場から素早く飛びすさった。


ほぼ同時に直撃する、数個の炎の塊。
先ほどまでポズンがいた位置はプスプスと音を立て、くっきりと黒いクレーターが作られていた。
ノアの腕の中でポズンがありがとうございますとお礼を述べる。
いえいえポズンの為ならこれくらい。
「…ていうか危ないなあ、戦っているのは誰だ?」
チェス側を見ればルークのレノ。
なるほどあいつのアームか。
民衆もいるのに遠距離系使うなよとぼやき、ていうか相手も防げよ。と突っ込みを入れる。
相手は誰だ、クロスガードか?
でもそういえば、今回は予選で多種多様な人材が通ったとかペタが言っていたような。
思考を巡らせながら目線を動かして、
「……は」
固まった。


青い髪に、青い瞳。


見覚えの、ある。
「……嘘だ」
声が震える。
下から戸惑い顏のポズンが何か言っていたが、まるで頭に入って来なかった。


ノアはオレが守る。
自分を庇う背中。
妖しく光る紫の瞳。
戦場に倒れ込む青い髪。
その身体に浮かび上がった奇妙な刻印。
頬を伝う涙。
泣き叫ぶ自分の声。
身体に回される冷たい手。
宙に浮いた自分の身体。
『ノア…っ!』
泣き出しそうな青の瞳。
自分に伸ばされた小さな手。



それが、彼との最後の記憶。



「……アルヴィス」
いともたやすくレノを倒したその背中に、小さく呟く。
ポズンが自分の腕の中でやりにくそうに勝利の宣言をしたが、ノアは聞いていなかった。
…アルヴィス、やっぱり出ていたんだな。



「…?」
フィールドから降り、アルヴィスはふと振り返った。
名前を呼ばれた気がしたのだが、民衆の歓声だったのだろうか。
「でも、たいした事ないよねーっ。」
「ねーっ。」
「オレなんてたくさんでてきたアレよけてたもんねーっ。」
「ねーっ。」
「あの時は本気を出してなかっただけだ!!」
ムカつく2人のやりとりに口を挟み、もう一度後ろを振り返る。
いつの間にか、ポズンの横にフードを被った人物が1人。
…観戦しに来たチェスか。
先ほどまでは気が付かなかった。
ふい、とフードが横を向く。
露骨に視線を逸らされた気がして、アルヴィスは眉をひそめた。
いや相手はチェスなのだから、露骨に目を逸らされようとなんだろうと別に構いやしないのだが。
なぜか、なんとなく。
見覚えがあるような、
そんな気がして。
「……?」



視界の端に、顎に手をやるアルヴィスが見えた。
懐かしい、それ6年前もよくやってたな。
唇を噛みしめる。
やっと会えた。
会えた、のに。
今彼の元に駆け寄るには、あんまりにも、
だって、


僕はチェス、
君はクロスガード。



自ら望んだ訳では無い、けれど。
端から見れば、その差は歴然だろう?




「……アルヴィス」
駆け寄りたい。
なのに駆け寄る事が出来ない。
背中のクロスガードのエンブレムが、
久遠に瞬いた。





『再会』



チェスを憎めない自分、
けれどアルヴィスを想ってしまう自分。
きっと、その矛盾が、
いちばん、苦しい。






「……わかりきっていたことなのに」


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