遥かかなたの記憶 その男は、いつも通り上等な肘掛け椅子に腰掛け、自分を待っていた。 『…やあ、マイア。今日はわざわざすまないな』 『呼び出しとは、いったい何の用事だ?ジョット』 『お前に渡したい物がある』 微かに笑みを浮かべたその顔に、なんとなく奇妙な予感はした。 嫌な、というわけではないが、 なんとなく、胸がざわつくような。 『…ボンゴレファミリーの裏役、闇で全てを支えてくれたヴィーラファミリー初代ボスに…いや、1人の親友として、これを』 『……これは』 優雅な仕草で差し出された手のひら、 その上できらりと光る、小さなリング。 『…ボンゴレリングと同じ、精製度Aのリング…貴重な大空属性だ』 『…お前、どこでこれを』 『気にするな』 にこり、否にやりと笑うボンゴレボス。 『俺とお前を繋ぐリングだ。ただの戦闘用だけでなく、他の形でも何かの役に立つだろう』 『最高に気持ち悪い言い方だな』 『なんだ、アラウディにでも言わせれば良かったか』 思わず、その場でずるっと滑りかけた。 かろうじて足をとどめたのは、ボスとしてのプライドだ。むしろ動揺をあらわにしなかった自分を誰かに褒めて欲しい。 『……何の話かな、ジョット』 『お前にもあるように、俺にも超直感が宿っているのを忘れたのか?』 『…俺のはそんな上等な物じゃない』 『まあ、そんな物がなくてもお前達の関係はもろわかりだがな』 『ちょっと待て、ジョット!』 『冗談だ』 にやり、言い放つ言葉にこちらはユーモアの欠片も感じられないのだからやめてほしい。 『…本当にやめてくれ。特に弟の耳に入ったら…』 『ふふ、もう片方の目も潰されるだろうな』 『まったく笑い事じゃないからな』 我が弟ながら、本当に碌でもない精神をしているのだ。病んでいる、と形容すればいいのか。 左目を覆う白い眼帯に触れ、マイアは小さくため息をついた。その隙にぐいっと手を引かれ、拳の中に冷たいものが滑りこまされる。 『…ジョット、』 『残念だが返品は受け付けないぞ、マイア』 思わず文句を言いかけた自分の前で、 金の瞳を揺らした相手は、僅かに目を細めゆるりと笑んだ。 |