I bite you to death! | ナノ

表紙へ戻る


遥かかなたの記憶



その男は、いつも通り上等な肘掛け椅子に腰掛け、自分を待っていた。


『…やあ、マイア。今日はわざわざすまないな』
『呼び出しとは、いったい何の用事だ?ジョット』
『お前に渡したい物がある』

微かに笑みを浮かべたその顔に、なんとなく奇妙な予感はした。
嫌な、というわけではないが、
なんとなく、胸がざわつくような。

『…ボンゴレファミリーの裏役、闇で全てを支えてくれたヴィーラファミリー初代ボスに…いや、1人の親友として、これを』
『……これは』

優雅な仕草で差し出された手のひら、
その上できらりと光る、小さなリング。

『…ボンゴレリングと同じ、精製度Aのリング…貴重な大空属性だ』
『…お前、どこでこれを』
『気にするな』

にこり、否にやりと笑うボンゴレボス。

『俺とお前を繋ぐリングだ。ただの戦闘用だけでなく、他の形でも何かの役に立つだろう』
『最高に気持ち悪い言い方だな』
『なんだ、アラウディにでも言わせれば良かったか』

思わず、その場でずるっと滑りかけた。
かろうじて足をとどめたのは、ボスとしてのプライドだ。むしろ動揺をあらわにしなかった自分を誰かに褒めて欲しい。

『……何の話かな、ジョット』
『お前にもあるように、俺にも超直感が宿っているのを忘れたのか?』
『…俺のはそんな上等な物じゃない』
『まあ、そんな物がなくてもお前達の関係はもろわかりだがな』
『ちょっと待て、ジョット!』
『冗談だ』

にやり、言い放つ言葉にこちらはユーモアの欠片も感じられないのだからやめてほしい。

『…本当にやめてくれ。特に弟の耳に入ったら…』
『ふふ、もう片方の目も潰されるだろうな』
『まったく笑い事じゃないからな』

我が弟ながら、本当に碌でもない精神をしているのだ。病んでいる、と形容すればいいのか。

左目を覆う白い眼帯に触れ、マイアは小さくため息をついた。その隙にぐいっと手を引かれ、拳の中に冷たいものが滑りこまされる。

『…ジョット、』
『残念だが返品は受け付けないぞ、マイア』

思わず文句を言いかけた自分の前で、
金の瞳を揺らした相手は、僅かに目を細めゆるりと笑んだ。

[ 80/155 ]
[] []

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -