終わりない交錯を閉じるため 3日。 3日経った、と雛乃は思う。 そう、紛れもなく3日だ。 ちらり、横目でベッドを窺えば、 無表情でナイフを磨く雛香の姿。 3日経った。 雲雀が、嘘を明かし雛香の首を絞めあげてから、3日。 あの日、進路を塞いだバリネズミ全てをオルトロスで破壊し、息を切らした雛乃の前に立っていたのは、 意識の無い雛香を草壁に預ける、 目を伏せた雲雀の姿だった。 『…雲雀、さん』 『…後は任せたよ』 『何を、したんですか』 『気道を潰したわけじゃない。動脈を塞いだから気を失ってるだけだ、適切な処置を施せばじきに目が覚めるだろう』 『…雲雀さん、』 『怒る気かい?宮野雛乃』 『あなたは、間違っている』 静かに、しかし毅然と言い放った雛乃に、 雲雀は一瞬目を見開き、背を向けた。 『…僕は間違いなんて犯さないよ、宮野雛乃』 遠ざかるスーツの背中は、ひどく孤独で。 『…僕は、雛香に近づくべきじゃない』 廊下の奥へ溶けるように消えた後ろ姿に、 雛乃は焼けつく胸の痛みを感じた。 (雲雀さん…) 間違っている。 雲雀は、間違っているのだ。 本当は雛香を求めているのに、 しかし近づかないように、そして近づけないように突き放した。 二度と、失わないために。 唇を噛む。 雲雀のことも不安だったが、それよりも雛香の方が心配だった。 (…雛香……) 突然の嘘、絞められた首。 何を言われたかはわからないが、雲雀が冷たく突き放したのはまちがいない。 だとすれば、兄は相当ショックを受けたはずだ。 現にここ3日間、雛香はろくに口をきかない。 (雛香…) でも、なんと言えば…。 「雛乃」 はっとし、顔を上げる。 ベッドから降りた雛香が、こちらをまっすぐ見据えていた。 いつの間にかナイフはしまわれ、身につけた黒い服の中で、首の包帯だけが白く浮いている。 「…雛香?」 「やっぱこんなんおかしいと、俺は思う」 ……は? 予想外、どころか訳のわからない唐突な発言に、 雛乃はぽかんとして相手を見返す。 凛とした光を瞳に宿す、兄の姿を。 え? 「…何言って、」 「それに俺は、堂々巡りが嫌いなんだ」 「……はい?」 またも、意味不明な言葉。 我が双子の兄ながら、全くもってその心情が読めない。 「だから」 「…だ、だから?」 「雲雀を殴りに行ってくる」 「……………え、えぇえ、って、雛香ー?!!」 雛乃がたっぷり3秒は固まっているうちに、 雛香はドアの向こうへと消えていた。 |