I bite you to death! | ナノ

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交錯の始点


「……は」


呆然と、相手の目を見つめる。
雲雀は身じろぎもせず、ただ口だけを動かした。

「…前も、そうだった。君は簡単に諦めた」
「…え…」
「君は実にあっけなく、僕に託したね」

何を、と言われなくてもさすがにわかる。
γとの闘いの後、
雲雀が抱いていた雛香のこと、だろう。


「……なぜだい?」


雲雀は、淡々と言葉を並べる。
なんの感情も滲まない、
否、滲ませまいとしているかのように。

「…なぜ、って…」
「憎めばいい」

見つめる。
こちらを見据える、黒い瞳。



「雛乃……君には、僕を憎む権利がある」



最愛の兄を殺した、僕を。








「はいそんな気はしていましたー」
薄暗い廊下を1人進む、雛香はため息をつきこめかみを押さえる。

迷った。

そうだ、いつも出歩く時は雛乃がいっしょだった。
今更な事実に気が付いて軽く絶望する。
なぜ、前は調理場まで普通に行けたのだろう。
我ながらもう意味不明だ。不可思議にもほどがある。

「…まー、仕方ないよな」

幸い、体調に変わりはない。
むしろいつもより良いくらいだ。


『…その身体で、出歩く気かよ』


一瞬、脳裏をよぎった銀色に思わず足が止まるが、慌てて首を振り打ち消した。


獄寺のことは、嫌いではなかった。
むしろ、いつの間にか随分と気を許していて。
我ながら、並盛に来るまでの警戒心はどこに置いてきたのかと呆れていたくらいだった。

ただ、

まさか告白されるなどとは、思ってもみなかった。

みなかった、から。
どうしていいのかわからない、のだ。


「…今は、探さないと」


1度に2つも、なんていう器用さは持ち得ていない。
とにかく今はあの黒スーツを探そう、
と逃げるような思いで足を進める雛香の耳に、
ふと、聞き覚えのある声が聞こえた。


「…雛乃…?」


耳を傾け、方向を探る。
何を言っているかはいまいちわからなかったが、
そう遠い場所にいるわけではなさそうだった。

「…誰と話してるんだろ」

そうだ、雛乃に雲雀の居場所を聞いてみよう。
またも医療室を抜け出したことには間違いなく怒られるだろうが、雛香に諦める気はなかった。
自分の思いを一生懸命伝えれば、弟はしぶしぶ許してくれるだろう。
互いが互いに甘いことは、言わずもがな知れたことである。


何の気なしに、雛香は再び歩き出した。


その先に待ち受けている光景など、
みじんも知らずに。




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