I bite you to death! | ナノ

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思考は彼を巡り


見つめ返す。
黒い、自分とよく似た瞳が、
鏡を覗き込んだ時のようにまっすぐにこちらを見つめていた。



『好きだ…ずっと前から』



とっさに目を逸らす。
それがどんな結果をもたらすかはー自分が、1番よく知っていたけれど。

「…いや、何もないよ」
「……そっか」

一瞬、何か言いたげな顔をした雛乃は、
しかし目元を歪めると、何も言わずに手を放した。

柔らかな温かさが、頬から遠ざかる。
10年経っても経たなくても、そのぬくもりは変わらなかった。
優しい、愛しい片割れの手だ。




満足だ。

そう言い聞かせなければ、グラついてしまいそうだった。
何もできないという無力感に、
自分の思い通りにならない身体に、
部屋からまともに出られない現実に、
そして、


『…思うとこがあんなら…俺を選べ』


苦しそうで、辛そうで、
それでいてなお、毅然とこちらを貫いた、

獄寺の瞳に。





「…わけ、わかんねえよ」
食器を片付けに雛乃が去った医療室、
その片隅のベッドで1人、雛香は額を押さえため息をつく。

突然だ。あまりに突然すぎた。
思えば自分が死んだところから始まって数週間、
展開が怒涛すぎる。
いろんなことがありすぎて、頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。


そして、
雛香の心をくすぶるものは、もうひとつ。




『…宮野雛乃を庇ったからさ』




あれ以来、
あの黒い瞳を見ていない。


たまに(雛乃の監視付きで)出歩くアジトの中、姿を見かけることはあっても、
相手がこちらに目を留める事は皆無だった。
というより、


「…避けられてる、よな」


間違いない、だろう。
だが、

なぜだ。




手元に目を落とす。
ここ最近、ろくにナイフも銃も握っていない手は白く柔く滑らかで、
皮肉にも戦力外をわかりやすく通達してくれているかのようで。

唇を噛む。


そうだ、俺は堂々巡りが嫌いなんだ。
どうせ相手は良くも悪くも直球な奴で、
気に障れば速攻でトンファーを振るってくるような、そんな奴だ。


だから、
今のまま悶々とするよりは、
きっと、ずっと良い。


ちらり、ドアに目をやる。
その向こうになんの気配もしないのを感じて、
ごめん雛乃、と雛香は内心で短く謝った。


立ち上がる。懐の武器を確認する。
こちらは最近寝っぱなしでなまっているうえ、相手は10年の経験を積んでいる。
下手すれば、ボコボコにされるかもしれない。

けれど、
それでいい、と雛香は思った。

あっけなく床に転がされたら、そこから笑ってやればいいのだ。
相手を見上げ、その無駄に成長した見目に口元を釣り上げて。


見た目は成長しても、
中身は何にも変わってないんだな、
と。


そっとドアノブを回し、足早に廊下を進む。
雲雀がどこにいるかなんて当然知らなかったが、別に構いはしなかった。

わからないなら、見つかるまで探すだけ。

黒い瞳に凛とした光をたたえ、
雛香はためらうことのない足取りで、廊下を進んだ。



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