I bite you to death! | ナノ

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獄寺の心情


「…ん、ふ…」
「…っ…」
目を開ける。
だが鼻先にチラついた銀の光に、
耐えられず再びぎゅっと目を閉じた。

「ん、あ…む、」

歯列をなぞるぬるい温度に、思わず肩が跳ねる。
必死で声を押さえようとする最中に肩が震えて、
思うように体のコントロールが効かない。

(…っ、)

呼吸が苦しくなる。
初めてなわけではないのに、
予想外すぎる事態に、どう動けばいいか混乱する。

「…ん、む、…んっ」

首を振ったつもりだったが、もしかしたらちゃんと動いていなかったかもしれない。
くらり、遠ざかる意識に身を委ねかけた時、
やっと唇が離された。






「はあっ、はっ、はっ」
肩で大きく息をしこちらを見上げた表情に、不意打ちで心臓が跳ねる。
口を開け、懸命に呼吸を整えるその目元、
潤みきった瞳のふちは赤い。
はあ、と大きく息を吐いたその唇の端から溢れた唾液が伝うのを見、
何か考えるよりも先に舌で掬っていた。

「!や、」
びくり、眼下の体が強張る。
握り込んだ手の内で細い手首が跳ねるのを感じ、
獄寺はその抵抗の意思を綺麗に無視してもう1度舌を差し込んだ。

逃げる舌を追い、無理矢理絡む。
思うままに強く吸えば、んん、と漏れた声にぞくりとした。
うっすら開いた瞼は、目が合った瞬間にぎゅっと閉じられた。
その目元が、ぱっと朱に染まる。

少しだけ、愉快に思った。
多少ーそれがほんの少しのもので、今限定でしかないとしても、

雛香が自分を意識している、

確かにそう思えた、気がして。


「はっ、」
顔を離す。
互いに荒い呼吸を繰り返しながら、暗い室内で視線を交える。
黒い瞳が、探るようにこちらを覗き込むのがわかった。
胸元を大きく上下させ頬を赤く染めた、その顔にまたぐらりと自分の中で何かが傾いたが、さすがにとどめる。
とどめられる範囲には、激情も収まっていた。


「…何、のつもり…」
雛香の瞳が、こちらを見据える。
困惑と動揺、そして微かな羞恥を浮かべながらも、
そのまっすぐな眼差しは健在だった。


「好きだ」


間髪入れずに告げた言葉に、
雛香は一瞬こちらを見つめーそして、
茫然、という表情に変わる。


「好きだ…ずっと前から」


片方の手首から手を放し、細い顎に添える。
それだけで、相手はびくりと肩をすくめた。


「…別に、答えは期待してない」


我ながら、ずいぶん馬鹿馬鹿しい告白だと思う。
こんなにも素っ気ない、虚しい告白の仕方があるだろうか。

けれど、仕方ない。

目の前の少年が何の行動にも出なかったら、
おそらくずっとこのままだった。

だが、
命を懸けて自分と山本を救おうとしたのだとツナから聞いたその瞬間、
そんな真似をしてまでという怒りと、
そして、そこまでの価値を抱かれていたのかというほの暗く密やかな、しかし確かな喜びが、
いつまでも喉元でくすぶってとどまって。


廊下でフラつくその姿を見た瞬間、
もう抑えることはできないと感じた。



「……ただ、」



くい、と雛香の顎を上げる。
大きく目を見開いた相手は、
しかしその瞳を逸らすことはしなかった。



「…少しでも思うとこがあんなら…俺を選べ」





別に、こいつを混乱させたいわけじゃなかった。
だから、告げないつもりだった。
どうせ叶わないなら、言わない方が良い。


ただ、イラつく。
そして、思ってしまうのだ。


いつまでもはっきりしない雲雀よりも、
歯止めにならない雛乃よりも。


俺なら、躊躇う事なくその手を掴んでやれるのに、と。

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