ひび割れてゆく感情 「ふざっけんな!!」 怒号が鼓膜を打ったと同時、襟元を勢いよく引かれた。 引かれたと気付いたのは壁に頭を叩きつけるかのごとく押さえつけられてからで、獄寺の動きに視覚が追いつかなかったことに心底驚愕する。 「…な、」 「てめぇには、もっと守るべきものがあんだろ?!」 低い怒鳴り声が、頬を殴り飛ばすかのように眼前で炸裂する。 ギチリ、手加減無しに引っ張られた襟元が、負担に大きく悲鳴をあげる。 「ご、くでら…」 「なんで余計なことしたんだよ……死んだらどう責任取るつもりだったんだ、てめぇはっ!!」 ぐ、と襟首をますます引かれる。 詰まった息にくっ、と思わず顔をゆがめると、 ぎらぎらと光る銀の瞳がどこか悔しそうに伏せられた。 え? 息苦しさに目を細めた雛香の前、 ぎりぎりと歯軋りをする獄寺。 「…ふざっけんな…」 「…ご、」 「てめぇが思ってんのは、俺じゃねえだろ…」 「……は…?」 「なのに、命懸けられるこっちは…たまったもんじゃねえんだよ!!」 首元が解放される。 思わず咳き込んだその瞬間、 思いっきり胸元を突き飛ばされた。 「っ、」 あがりかけた声を、なんとか飲み込む。 ぽすん、と場違いなほど柔らかな感触を後頭部に感じて、 自分がベッドに倒れ込んだことを理解した。 「…ふざけんな」 ギシリ、ベッドの枠が異様な音を立てる。 はっと顔を上げた雛香が頭上の気配に気付くと同時、 無防備に投げ出されていた手首を強く掴まれた。 「……この、馬鹿が」 |