I bite you to death! | ナノ

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水面下の苦悩


「……雲雀、さん」
「やあ、宮野雛乃。ところで沢田綱吉、煩い相手が君の事を探していたけれど」
「え…」

突如医療室の入り口に現れた雲雀に、
あぜんとしていたツナの頭は、のろのろと動き出す。

「…あ、あ…」

そういえば、午前ラルとの修業を終えて、
午後からまた手合わせする前に、ちょっと雛香くんの様子を見てこようとして……。

嫌な予感。
じりじりと胃の底を焼く焦燥を感じながら、
ツナはおそるおそる時計を見た。

「…あ、あ、ああぁああああ!!」
かんっぜんに、時間過ぎてる!!!

「煩いよ、騒々しいね。咬み殺す」
「まっ、待ってくださいすみませんでしたっ!!」

思わず頭を抱えて土下座しかけるツナの前、
己の武器をかまえて背後に炎を燃やす雲雀の姿。
雛香と雛乃は先ほどまでの空気も忘れて同時に小さく吹き出した。

「…って、ていうか!雛香くんなんでそんな平気そうなの?!」
「……へ?」
こめかみから恐怖による汗を流しつつ振り返り叫ぶツナに、雛香はきょとんと見つめ返す。
というか、そこまで雲雀が怖いのなら、わざわざ振り向いてまで聞かなくても…。

「だって、雛乃のために死んだんだろ?」

今日の天気は雨だろ、くらいの軽さで彼は言う。


「だったら、むしろ本望だよ」



「……雛香、くん」
「….なんて、まあ」

ふっ、と笑んだ雛香は、
おもむろにベッドから飛び降り、ツナの前へと歩み寄る。


「…それで雛乃が喜ばないってことには、気が付いたんだけどね……最近」
「?!」

わしゃ、と突如髪をかき乱されたツナは、
ぎょっとし相手を見上げた。
自分よりほんの少しだけ高い、黒い瞳。
何すんの、と言いかけたのをツナは思わず飲み込んだ。


「…ツナ達が、教えてくれたから」


ふっと優しく笑む、黒い瞳。
ぐしゃぐしゃとかき乱す手のひらを感じながら、
ツナは小さく口を開いた。

「…雛香く、」
「わかってるよ。…もう少し、自分を大切にしろ、だろ?」

口元を上げ、晴れやかに笑った彼に。
ツナも、思わず頬を緩めていた。



だから、気が付かなかった。
背後、顔を翳らせうつむいた、雛乃の表情の変化に。


そして、
無表情に背を向けた、雲雀の横顔に。


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