彼が死んだ理由 嗚咽する雛乃(見た目青年)とそれをベッドの上から抱きしめ落ち着かせる雛香(14歳)という、非常に不思議な光景を眺めながら、 しかしツナもまた涙腺が緩んだ。 良かった、と心の底から思う。 雛香は死んだ、と告げた時の、 雛乃の感情の欠落し切った顔。 何が雛香の死因となったかはわからないが、1人残された雛乃は、今まで想像を絶する辛い日々を過ごしてきたに違いない。 背丈も伸びて顔も鋭さを増したけれど、 でも、彼はきっとずっと求めていたのだ。 最愛の兄とこうして会える、その時を。 「…雛乃…雛香くんっ……」 「…ツナ、顔ぐっしゃぐしゃだけど」 「う、うるさいよ雛香くんっ…雛香くんだって目うるうるさせてるくせに…」 「は、何言ってんの、んな訳ないじゃん」 「いやあるから」 「ない」 「ある!」 「ない!」 「2人とも仲良いね…ツナ、嫉妬するよ…」 「待って雛乃!嫉妬のレベル早すぎない?!」 ただの言い合いにすら涙を拭きつつ腹黒い笑顔を浮かべる雛乃に、ツナはもはや恐怖を感じた。 「…でも、本当に無事そうで良かったよ、雛香くん」 「だから大丈夫だってこのくらい」 「嘘つかないでよ。内臓、やばいんでしょ?フゥ太から聞いたんだからね、俺」 「いや、内臓のひとつやふたつ、別に問題ないし」 「「いやあるから」」 つっこんだツナと雛乃の声がきれいにハモる。 「そんなこと言うから心配なんだよ……もっと自分を大切にして、雛香くん」 「え」 ため息をつき、ツナは雛香を困った表情で見つめた。 骸との時といいヴァリアーとの時といい、 彼はどうしてこう自分の事は二の次になるのか。 「いやだって俺、雛乃のためならどうなってもいいし」 「雛香!」 あっさり言い放った雛香に、傍らの雛乃がパッと立ち上がり咎めるように名を呼んだ。 だが、黒髪を軽く揺らす少年は気にかける様子もなく、むしろ微笑み雛乃を見上げる。 「だから、雛乃は何も思う必要はないよ。むしろ謝らなきゃいけないのは俺だ…1人に、した」 「……違う」 「え?」 口を挟めず立ち尽くすツナの前、 なぜかひどく苦しそうな顔をした雛乃が、雛香の言葉を遮る。 目を見開いた雛香の前、 兄によく似た黒目に辛苦の色を浮かべ、 雛乃は口を開いた。 「……違う、違うよ。謝るべきは僕だけなんだ。だって、雛香が死んだのはー」 雛香が、死んだのは。 思わぬ話の展開に、 さしもの雛香も息を呑み、 ツナが凍り付いた、その時ー。 「宮野雛乃を庇ったからさ」 止まった時間の中、 響いたのは低い声音だった。 「……そうだろう?宮野雛乃」 |