安息の時 「…って訳で、ツナはラルに鍛え上げられてるみたいだよ、雛香」 「…何それ」 ぶうたれるのは、ありありと不機嫌顔をした雛香。 「俺はどうなってんだよ雛乃」 「雛香はしっかり休んでて。一命を取り止めたとはいえ、今も身体にはかなりの負担が掛かってるからね。動くなんてもってのほか」 「俺だけ足手まといなんてやだ」 「拗ねない怒んない口尖がらせない。可愛いけど」 「雛乃ー」 「そんな上目遣いされても揺らが……揺ら……ちょっと揺らぐかも……」 「しっかりしてよ雛乃?!!」 「「あれ?ツナ?」」 いつの間に、とそろって目をぱちくりさせる2人に、医療室のドアを開けたツナはため息をついた。 入江正一を倒すために強くなると決意してから早幾晩、ツナはすでに修業に入っていた。 獄寺と山本は未だ療養中だったが、まもなく修業に参加できそうだという。 しかし、禁じられていた『催眠』を使い、生死をさまよった彼だけは別。 怪我が治りつつある今も、現状だけを手短に説明され絶対安静を命じられているのだがー。 「ボンゴレボス、俺ハイパー元気だからなんとかして」 「できないよ!!ていうか大人しくしてて!」 「無理。1人足手まといとかほんと無理」 「言っとくけどかなりヤバイ状況らしいからね雛香くんの体!!」 「俺が平気って言ってんのに?」 「むしろなんでそんなに平気そうなの?!」 顔色は悪いながらも他はいつもと変わらないその態度に、ツナは目をむきツッコむしかない。 ベッドの上、むすっとした顔でこちらを見上げるその姿は、いく日か前の重傷の様子は欠片もなく。 だが、実際彼の体は非常に危険な状態らしい。 暗い面持ちのフゥ太にそう告げられたツナとしては、彼の修業を許可するなんてもってのほか。 「皆心配しすぎだろ。リボーンも昨日すんごいうるさかった」 「「えっリボーン来たの?」」 いつの間に、と2人の声がきれいに重なる。 「ああ。なんか、元気そうで安心したけど大人しくしてろよって」 つまらなそうに言う雛香の顔は、まるで大したことないと言わんばかりである。 実際、大したことないはずがないのだが。 ちなみにここで「僕の知らない間にあいつ…」と雛乃は黒い顔で呟いていたりする。 伝説のアルコバレーノにすら殺意をみなぎらせる、 それが10年後の宮野雛乃である。 「お願いだから、無茶しないでね。雛香」 ちゅっ、と雛乃がおもむろに雛香の額に口付ける。 「ん…」 不服そうな様子を見せながらも、額を触る雛香はどことなく嬉しそうな顔をした。 ちなみにツナはどん引きである。 「……もう2度と、雛香を失いたくないから」 ぽつり、落ちる言葉。 ツナははっと息を詰め、うつむく横顔を見た。 悲しそうな、暗い瞳。 「…うん。ごめんな」 1人に、して。 そっとベッドから起き上がった雛香が、 傍らに膝をつく雛乃に手を伸ばした。 自分より10歳年を経た、双子の弟の頭を優しく撫でる。 「…雛香……」 ぐしゃり、ゆがめた顔を上げた雛乃が、 次の瞬間、 堰を切ったように泣き出した。 |