回想の続き 『君は、どうしてあの弟がそんなに大切なの?』 『……は?』 目を上げれば、机の向こうからこちらを見る真っ黒な瞳が見えた。 机、といっても教室にあるようなありがちなタイプの物ではない。応接室専用、ならぬこの目の前の暴君専用の大きな事務机である。 その向こう、肘をつきほおを乗せ、つり気味の黒目をこちらにセットした雲雀恭弥は軽くうなずいた。 『…そう、なんで?』 『なんでって…』 きょとん、として相手を見返す。 ぱちぱちと馬鹿みたいにまばたきを繰り返していれば、相手の顔がだんだん冷めたものに変わっていった。 『…やめた。馬鹿馬鹿しい』 『え』 『何その当たり前、みたいな顔』 『だって当たり前だから』 当たり前の事だった。 双子の弟を大切に思う、それは当然の事で。 もうこの世にたった1人しかいない肉親を、他人から見たら少々異常かもしれないが、でも自分の全てをかけて愛することは、自分にとっては当たり前で揺らがない、揺らぐことのないただひとつの信念だった。 『…君は、一生そうやって生きていくわけ』 ふっと顔をあげれば、こちらを射抜くような鋭い視線。 『まあ、できたら』 雛乃が許してくれたら、 そしてそれまで自分の体がもてば。 『他の人間の事は?』 『…ほかの人間、て?』 『君が最近よく群れる、あの草食動物達が良い例だろう』 『ツナとか獄寺のことか』 よく群れる、という言い方にどこか違和感を感じた。 別に嫌悪ではない。 むしろ、背中がむず痒くなるような、照れるような妙な感覚がした。 そうはっきり言われると、彼らとよく関わるようになった事を、改めて再確認させられた気がして。 『君は弟以外にも、目を向けるべきじゃない』 何気なく放たれた一言に、 しかし、息が詰まったのは。 きっと。 「…ん……」 目を開ける。見えたのは薄暗い天井だった。 ぼんやりと虚空を見つめて、ああ寝かされてるんだな、ということはとりあえず判断がついた。 頭の下に感じる柔らかい枕、体にかかる軽いシーツ。 体は重たい。だがそれは予想の範囲内だった。 むしろ。 (生きてる……) あれ、次『催眠』使ったら、俺死ぬんじゃなかったっけ。 我ながらずいぶんとあっさりとした考えが浮かぶ。 安堵よりも喜びよりも、なんだか拍子抜けしたような感覚がした。 脳裏に浮かんだのは、 意識が遠のく前に見えた黒い切れ長の瞳。 …ひばり。 声に出さずに呟く。 名を呼ぶ。 確かに、あれは雲雀だった。 少し雰囲気が違ったような気もしなくはないけれど、でも、確かにあの瞳は…。 「…?」 ふと、今更ながら左手に違和感を感じた。 うまく動かない首に鞭打って回し、横を見る。 「…へ」 思わず、間抜けな声が出た。 |