そして彼は 「…くっ…!」 「…こりゃあ…驚き、だな」 呟き、γはよろめきながら立ち上がった。 なぜか身体に力が入らないが、動けない程ではない。 そのまま、地に転がる相手の元へ足早に進む。 四肢を投げ出し横たわった相手は、なぜか心臓の辺りを強く掴んでいた。 「…はっ…」 「熱烈なキスだったな…何が狙いかはわからないが」 口元をなぞる。 てっきり薬でも飲まされるか、あるいは毒が唇に塗られているとかいったたぐいだと思ったのだが、全身に力は戻りつつあるし、大して何のダメージも無い。 ただ、 『死ね』 妙な声が、聞こえた気はしたが。 「…く、う…」 「苦しそうだな」 何をしくじったのか、地に横たわる少年の容態はひどく悪そうだった。 ぎゅっと目をつぶり胸元を強く握りしめ、わずかに開いた口元から引きつった呼吸音を吐き出す。 投げ出された指が地面を強く引っ掻くのを見れば、その身体が苦痛に耐えているのは一目瞭然だった。 「…なるほど、確かにタフだが…何を、した?」 「…っ、う…」 ますますぎゅっと目をつむり、少年は小さくあえぎ呻く。 その薄い唇に、 なぜか、自然と目が引き寄せられた。 「…面白い奴だな」 「…?、う…」 驚いた事に意識はあるらしい。 うっすら開かれた目の下、滑り落ちた涙が頬を伝う。 「……そうだな、楽にしてやる前に…」 「、あ、ぐ、」 ぐいっと襟元を掴みあげれば、少年は微かに声を漏らし、ぐたりと首を後ろに折る。 ぶらり、力無く空を揺れる、細い両足。 「ちゃんとした、キスの仕方を教えてやるよ」 瞬間、幹にその小柄な体を勢いよく押し付けた。 「…?!、ん、」 「舌は噛むなよ」 細く開いた目に、混乱が浮かぶ。 塞いだ唇は緩く、舌を差し込めば簡単に開いた。 「…ふ、う…ん、んっ…」 小さく漏れる声に、背筋がゾクリと粟立った。 簡単に布を巻いただけの首元が痛むのも気にならず、さらに強く舌を這わせる。 「…、や、め……む、」 弱々しい抵抗を示す、両の手首は捕らえる。 木の幹に相手の頭を押し付け、軽く首を傾ければ、 深く口付けた唇の間から、熱っぽい吐息がこぼれ落ちた。 それが苦痛から来るものかキスによるものかは、判断がつかなかったが。 「ん…や、……んっ、」 「…ふ、」 耐えきれず、こちらも声が漏れた。 一瞬離した唇の先、はあ、と息を吐いた少年は、ぐったりと木に頭を凭れさせる。 頬を上気させ細めた瞳を涙で潤ませた、その表情に妙な具合で心臓が跳ねた。 「…おかしいな」 男を相手にする気は、ないはずなのだが。 くすり、片頬で笑んだγが再び顔を近付ければ、ゆっくりでありながらも少年は顔をそむけ、拒絶の意を示した。 「…やめ、ろ」 「まだ抵抗するあたり、確かにタフだな」 「はな、せ……ぐっ、」 「だがずいぶん、苦しそうに見える」 背けた目元がゆがみ、苦しげに瞼が下りる。 力の抜けきった手首を軽く握れば、投げ出された足が微かに痙攣した。 そのまま顔を近づければ、相手は気配を察知したのか、目を閉じたまま小さく喘ぐ。 「…いや、…だ…」 「意識飛ばした方が楽じゃねえのか?」 いったいどこにそんな強靭な意思が残っているのか、彼は焦点の揺らめく瞳でなお拒否の意を示す。 それはそれで面白い、そう思い口の端をつり上げたγが、さらに唇を重ねようとした、 その瞬間。 「!」 とっさに振り返るより早く、 長年の反射神経が働き雷狐〈エレットロ・ヴォールピ〉を前へ飛び出させる。 そして、 空中で激しくぶつかり合う、2色の炎。 「…ねえ」 カツ、 突如現れた彼は、すっと鋭く目を細める。 「……君、何してくれてるの?」 パタン、と紫の匣を閉じ、 ダークスーツを身にまとった10年後の雲雀恭弥は、 溢れ出る殺気に口元を歪ませ吐き捨てた。 |