I bite you to death! | ナノ

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雛香の心


『次、〈催眠〉を使ったら、君は死ぬよ』



忘れていた、わけでは当然無い。
覚えていた。
覚えていた、鮮明に。





「次期門外顧問と聞いてた割には、細っこいな」

揶揄とも聞き取れる言葉に、意識が浮上する。
うっすら白んだ視界に、覗き込む男の顔が見えた。
身体が動かない。
今まで数多の攻撃を受けてきたが、これほどの威力の感電は初めてだった。

やばい、

ふっと浮かんだ言葉とともに、再度意識が遠ざかる。
このまま眠りについてしまえれば、どれほど楽だろうか。
全身を抉る激痛も痺れも感じない、眠りにつけてしまえたら…。


「お前もあいつらと同じ末路を辿る事になるぜ?」


目を開ける。
相手がわずかに首をひねって見る先に、

血塗れの、獄寺と山本。




『ああ?文句あんのか宮野?』
『獄寺落ち着けよー、あ、雛香、俺唐揚げ食わせて欲しいのな』
『うっせぇんだよ野球バカ!しかもいつまでやる気だそれ!』
『なんだよ、獄寺もやって欲しいんだろー?あ、雛香それがいいのな』
『…は、あ?!っざけんな、誰が、んな恥ずかしいこと…!て、宮野てめぇなんで笑ってやがる!』





いつかの屋上でのひとコマが、
ひどく眩しくて、懐かしくて。

ツナの隣で騒ぎ合うこの2人に、
気がつけば自分も雛乃も、幾度となく救われていた。救われた。



死なせる訳には、いかない。



脳裏に浮かび上がったのは、1つの方法。
この絶対的危機を乗り越える手段を、自分は1つだけ持っている。
しかし同時によぎったのは、

白衣の男と小さな赤ん坊の言葉。


『次、〈催眠〉を使えば君は死ぬよ』
『宮野兄、お前次は死ぬぜ?』


死ぬ、それはつまり。

雛乃に、会えなくなるという事だ。
そして、
あの委員長にも。




「…舐めんな」
「?」

不思議そうな顔をした相手を、睨みつける。
視界の端、見えるのは倒れた黒髪と銀髪。


ごめんな、雛乃。


心の内で、小さく謝る。
泣くよな、怒るだろう、絶望させてしまうかな。


ごめんね。
でも俺は、2人を助けたいんだ。


目を閉じる。
大きく息を吸い、吐く。
ひるがえる学ランが、暗闇に見えた気がした。
心中で名前を呼びかけて、
やめる。
感電と無関係に震えた手を、強く握りしめた。


死が怖くないなんて綺麗事は言えない。
でも、


目を開ける。

最後までとどまった眼裏の光景では、
自分が確かに大切に想った、あの居場所が鮮やかに浮かんでいて。


逡巡は、数秒だった。
決意した瞬間に、素早く腕を上げ掴みよせる。
狙いは、すぐ目の前の相手の襟首。


重ねた唇に、
なぜか一瞬、胸が痛んだ。





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