宮野雛香VS.γ(2) 「残念だったな、数撃ちゃ当たるってもんじゃあ…」 帯電しナイフを弾き落としたγが、やれやれと頬をかいた、 その刹那。 突如その首元から、鮮血が噴き出した。 「?!」 目を見開いたγの真後ろ、 木の幹に深々と突き刺さる、白いナイフの柄から伸びているのは。 「…ワイヤー、か?」 首元を押さえ、γが呟く。 よろめいたその白い服を染め上げるは、対照的な赤の鮮血。 「…なる、ほどな…頸動脈を狙ってくるとは…」 呟き、顔を上げたγの前、 銃口をかまえる少年の姿。 「バイバイ」 次の瞬間、 数多の銃声が響き渡った。 (…手応え、あった、な…) 肩で息をしながら、雛香はふっと口元を緩めた。 「…さんきゅ、ベル」 呟き、右手に絡ませたワイヤーを引っ張る。 カランカラン、という音とともに、木から抜け落ちる白いナイフ。 足元に引き寄せたそれを拾い上げる。 少し前、自分のナイフと交換した(というか勝手にされていた)、ベルの物だ。 「…お前のおかげだ」 刃に軽く口付け、懐にしまう。 相手の様子を窺おうと、硝煙の消えるその向こうへ目を上げた、 瞬間。 「ッ!!」 目の前を、 何かが、 「……フー、こりゃ危なかったな」 聞こえる。 どこか遠くで、声が聞こえる。 (な…ぜ……) 確実に、当てたはずだ。 首も深く、切ったはず…。 「まだ生きてるだろ?」 ふいにすぐ側で、声が響いた。 風を切り裂く、鋭い音。 ヤバい。 脳内で警鐘が鳴り喚いたが、動けなかった。 「うぁああっ!!」 「さあて」 意識が遠ざかる。目の前が暗くなる。 だが次の瞬間、身体が浮かび上がる感覚とともに、 再び、激痛が全身を貫いた。 「あ…ぐ…」 「こっちの出血もなかなかヤバいんでね、早めに吐いてもらわないとな」 首元を掴む冷たい手の感触。 揺らめく細い視界に、男の目が見えた。 こちらを見据えるその瞳には、情の欠片もない。 平淡な、冷めた色。 「ぐっ…」 首が絞まる。 息が漏れる。 呼吸ができない。苦しい。 「さて、まずひとつ教えてもらおうか。宮野雛香」 必死で握りしめた手は、虚空を掴んだ。 持っていたはずの銃が、無い。 さきほど、はじけ飛んだのか。 「なぜお前は、生きている?」 衝撃。 背中から全身を伝わる激痛に、 息が抜ける。 吐く。 血溜まりが広がる。 (……り、) 脳裏に瞬いた黒髪が、 閃いて、消えた。 |