報告 「装置自体も問題なく作動してる。って言っても、白蘭サンとの戦い、問題山積みだな……」 「何か手伝えることがあるなら、手を貸すけど」 「!君は……」 クシャクシャと頭をかいていた入江が、驚いた顔で振り返る。機材をいじっていたスパナも、ん。と短く呟き顔を上げた。 「雛香君……!」 「どうも。お呼ばれしたって聞いて」 「あ、ああ……。伝達は上手くいったみたいだね」 「伝達係が優秀だからな」 言わずもがな、ビアンキのことである。 「で?」 ざっと周囲を見渡し、雛香は首を傾ける。 白い円形の装置に、伸びる無数の紐。じゃ、なくて有線か。 その横、カタカタとパソコンを打ち鳴らすのは、棒キャンディーを咥えるスパナ。 どうやら、作業は滞りなく進んでいるらしい。不眠不休らしいもんな、と雛香は聞いた情報を思い返しながら、片手に持っていた袋をガサリと揺らした。 中身は食料に甘味、あとは飲料水とスコーンである。 「で、って?」 「俺に話があるって言うからさ。なんなのかな、と」 不意に、パソコンを膝に抱えるスパナと目が合う。 そのまま、何を思ったのか、相手はひらりと軽く手を振った。 心底ぎょっとする。え、俺ほぼ初対面なんだけど。 数秒迷ったが、雛香も結局、控えめに手を振り返した。 「……正直、言おうか迷ってるんだ。あまり、良い話じゃない」 「それはわかるよ。1人で来いって言われた時点で、心構えはできてる」 「……雛香君は、どう思ってる?」 「?何を?」 ジジッ。 佇む入江の背後、白い装置が小さな機械音を立てる。 中には、10年後の雛乃がいるのだろう。自分を支え、励まし、微笑んでくれた優しい顔。 最後に、お礼言いたかったな。 そんな考えが、ふっとよぎった。 「――白蘭サン」 ドクリ。 心臓が、嫌に高鳴る。 「……白蘭?」 「そう。……白蘭サンについて、何か思うところはないかい?」 「べつ、に――」 ――雛香チャン。 白い髪。向けられる笑み。 伸ばされる手。優しい言葉。 ――君は、僕の側にいてくれるでしょ? 「……別に、ない、けど」 きゅっと手を握る。語尾が小さくなったことに、入江が何か勘付かなければいいと思った。 「……そう」 入江はこちらを眺め、何とも言えない顔をする。 だが、それ以上追及しようとはしなかった。 「……話って、それだけか?なら、」 「心して、聞いて欲しいんだ」 雛香は無意識に息を詰めた。入江が、じっと視線を向けてくる。 その目には、今まで見たことのない鋭さがあった。 「雛香君。君は、……白蘭サンに、狙われている」 どさり。 手から滑り落ちた袋が、地面に静かに横たわった。 |