暫しの休息 「……しっかし、改めてこうして休みをもらうと……」 「なんか平和すぎて拍子抜け、って感じだよね。雛香」 「同感」 雛乃の言葉に顎を引き、雛香は長い廊下を弟と連れ添い歩く。 あの衝撃的な戦闘から早1日、入江の「とりあえずアジトに帰りなよ」という言葉に従って、雛香達はボンゴレアジトに戻って来ていた。 ボロボロのツナに獄寺、さらに重傷の山本と雛乃(『僕は雛香が全ての薬だから、雛香にくっついていれば絶対安心絶対治る』と豪語してリボーンに蹴り上げられていた)、ラル・ミルチにクロームと、とりあえず怪我人だらけだったのもあって、全員に与えられたのは2日の休み。 特に外傷のない雛香にとっては、思ってもみない猶予である。 「雲雀もどっかに行方眩ますし……」 「地上に出た途端、『群れたくない』だもんね」 雛香がボヤけば、隣で雛乃が困ったもんだねとでも言うように、くすっと笑った。 ちなみに2人が向かうは食堂、雛乃はすぐ迷う兄の案内役であり、ただのくっつき虫でもある。 「でも、本当に良かった。雛香が無事で」 「……心配、かけたな」 「うん。でも、こうして会えたから、もういいよ」 雛乃と目が合う。 優しく、暖かなその瞳は、10年後の弟と何も変わらない色をしていた。 「……雛乃」 「何?」 「好きだよ」 何の気なしにそう言えば、雛乃の動きが不自然に止まった。 一瞬、ぽかんと口を開け、それから我が弟はみるみるうちに真っ赤になる。 「……なっ、えっ」 「え、そんなにびびる?」 わりと普段から好きだの愛してるだのなんだの、あれこれ口にしていたと思うのだが。 微妙にショックを受ける雛香を見、頬を赤くした雛乃は、ぶんぶんと思いっきり首を左右に振った。 「いや、そう、だけど……。なんか、久々なせいもあって、……照れる」 「え」 「雛香、……ありがとう。僕、すっごく嬉しい」 にへ、と緩んだ顔で笑った雛乃が、次の瞬間ぱっと雛香の首に抱きつく。 驚き、二、三度まばたきを繰り返した雛香も、すぐに頬を緩めて抱き返した。 「うん。……俺も」 「雛香……」 抱き返した背中は小さく、暖かい。 自分のよく知る、そして記憶に刻まれた、 確かな雛乃のものだった。 「……っていうことがあってね〜」 「ハハ、そっか、良かったね……」 「雛香のデレだよ。久々にがっつり感じたデレ」 「そうですか、そうだねー……」 「うん、僕もう嬉しすぎて危うく兄弟の仲を超えてガバッと襲いにかかるところで」「はーいストップ黙ろうか!!!」 「……全くもっていつも通りだな、てめぇは」 「何ソレ褒め言葉?獄寺」 「10年後と変わらなさすぎて……イヤ、むしろひどすぎて逆に何とも思えなくなってきたぜ」 「ははっ、雛乃は相変わらずだな〜」 「極限に兄を愛しているのだな、雛乃!」 食堂に次々と響き渡る、ある意味地獄なブラコン発言の嵐。 ブレーキをかけたツナが鬱々とした息を吐き、獄寺がげんなりした顔をする。その横、朗らかに笑う山本に、グッと拳を握る笹川。 口をぎゅむっとツナに塞がれた雛乃は、もがきながらも声をあげた。 「そーだよ極限に僕は雛香を愛してる、それだけだよ!」 「あれ?そういえばその雛香は?」 ふと、ここで話題の中心人物がいないことに気が付いたツナがあたりを見渡す。 先ほどまで、というよりこの弟と一緒に食堂にやってきて、ご飯を食べていたと思ったのだが。 「恥ずかしくて出てっちゃったんじゃね?」 「いやそれはないと思うけど……」 首を傾ける山本に、ツナは頬をかく。 むしろいつもの雛香なら、喜々として横で聞いてそうだ。 「雛香君なら、さっきビアンキに連れられて……」 「「へ?」」 おずおずと口を開いた京子に、ツナと雛乃が揃って間抜けな顔をした。 「……入江正一が、俺に?」 「ええ。話があるそうよ」 そういえばそんなこと言ってたかもな。 呟き、雛香はビアンキの顔を見上げる。 食事中、雛乃が興味深い話(自分への愛情語り)を始めたなと思い、ワクワクしながら耳を傾けた、と同時に彼女に引っ張り出され、 これだ。 「1人で来てほしいとの伝達よ。私に連絡が来るあたり、どうやら子供組の誰にも知られたくないようね」 「来て、って……」 「メローネ基地」 ビアンキの目が細くなる。 「いえ……今は、元メローネ基地があったところ、と言った方が正しいかしらね」 |