I bite you to death! | ナノ

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おかえり雲雀


「……ふぁーあ……」

まさか、
頬を引き攣らせる幻騎士の前、

「騒がしいなぁ…何の騒ぎ?」

瓦礫の山と化した球針態、積み上げられたその真上で、


「…君、誰?…僕の眠りを妨げると、どうなるか知ってるかい?」


「風紀」の腕章付きの学ランをはためかせ現れた10年前の雲雀恭弥はー鋭くその目を光らせた。




「…10年前の雲雀恭弥か」
「…?」
投げかけられた独り言に近い問いかけに、立ち上がった雲雀は眉をひそめる。
だが、ふと何かに気が付いたようにくいっと顎を上げた。

「君、並中ならその眉毛は校則違反だ」
「!なっ…」

突然の罵倒とも取れる指摘に、幻騎士はぎょっとした顔をする。
一方の雲雀は涼しい顔で、ふとあたりを見渡した。

「……山本武、に、宮野雛乃…」

足元、うず高く積まれた瓦礫の横に、ぴくりとも動かない少年2人の姿を認め、雲雀はスッと目を細める。
だがその視線をさらに横へとスライドさせた瞬間、彼はその目を大きく開けた。


「……ッ、宮野雛香……!」






……ああ。なんだっけ。
俺は、なんだろう。どうしてここにいるんだっけ?
頭が、うまく動かない。


『……雲雀、恭弥……』
『……宮野雛香。君は、』

胸を抉るような痛ましい目つきで、黒髪の青年はこちらを見据える。

『君は……こちらに、来るべきだ』



知らない。
こんな場面、こんな情景、こんな感情。
なのに、伸ばそうとした手の先に、
悲しそうな目をした白髪が浮かんだその瞬間、

泣きたくなるような鋭い胸の痛みを、確かに感じた。







「……!…ッ!雛香!!」


聞こえる。
どこか遠くで、確かにあいつの声が聞こえる。


「っ、邪魔しないでくれるかな。僕は宮野雛香に用があるんだ」
「貴様は確実に屠らねばならぬ」


…間違い、ない。
これは、あいつの。


「……ひば、り……」

雲雀。
もっと、名前を呼んで。
もっと、俺の名を呼んで欲しいんだ。


「…宮野雛香に、何をしたの」
「…何?」


ひばり。
俺のことを、呼んで。




俺が、『俺』でなくなってしまう、その前に。








「……宮野雛香!!」
声を張り上げても、地に伏した少年が動く様子は微塵もない。
チッと苛立だしげに舌打ちをして、雲雀はトンファーを構え直した。

「…あれだけこの僕を探し回らせといて、このザマかい?」

苛立ちの底、揺らぐ不安と焦燥の色を押し込めて、黒い瞳をぎらりと煌めかせ。


「…とりあえず、君は咬み殺してあげる」


雲雀は、猛然と幻騎士に襲いかかった。

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