I bite you to death! | ナノ

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さよならは言わないから


「いくよ」
「…雲雀?」

突如3つの霧のリングを嵌めた雲雀に、雛香はうろたえ気味に声を掛けた。
対峙する幻騎士も同じく困惑しているようだったが、雲雀に動じた様子は微塵もない。
ただ、取り出した匣に燃え上がる指先を近づけ、

ー何のためらいもなく、全てのリングを無理やり嵌め込んだ。


「なっ、雲雀!!」
「雛香」

何してんだと言いかけて、突如ぐいっと引かれる肩。
思わず一瞬硬直し、硬い胸元の感触を頬で直に感じて、さらに数秒フリーズする。
だが、視界の端で輝く匣と轟音に、雛香は慌てて我に返ると同時、声をあげた。

「は、なっ、お前、こんな時に、」
「雛香」

再び、名前を呼ばれる。
その声音に、雛香は思わず息を呑んだ。

さらり、髪を梳き後頭部を強く押さえる手。
頬に感じる確かな温もり。
すぐ横、光り弾ける匣兵器の輝きが目に痛い。


「ー好きだよ、雛香」


その瞬間、
音という音が消えた気がした。

匣兵器の眩い閃光と炎に占められた白い世界で、
雲雀の体温と声だけが、体中に響く。




「ずっと、君を待っている」




耳元、
雲雀の囁きが、鼓膜を震わせた。




ーいつまでも、この未来で。





「……ーえ、」

呆然と雛香が見上げたその先、
暖かい色に染まった黒の瞳が、ありえないほど優しく笑んでいるのが見えて、



それを認識した瞬間に、勢いよく肩を突き飛ばされた。









「…ほう。あの少年は、いいのだな」
「うん」

戦う人間以外を全て排除する、裏・球針態を発動させ、
自身と幻騎士だけを中に残した雲雀が挑戦的に唇をつり上げる。

「あの子の顔を、最後に見たくはないからね」
「……?」

幻騎士が不可解そうな顔をする。
それを無視して、雲雀は足元に転がるトンファーを拾った。


(……宮野、雛香)



脳裏に次々と浮かぶのは、
果敢にナイフを振るうあの姿に、不敵に笑んだ表情、そして頬を真っ赤にしそっぽを向く横顔。
だがそれらに被さるようにして浮かんできたのは、
もう少しだけ大人びた、自分のよく知る彼だった。

藍色と橙を同時に操る黒いスーツ姿、
挑発するように笑んでは開匣する毅然とした表情、
楽しげに笑っては仕方ないなあ本当にお前はと紡がれる軽口が、暖かく染まる黒の瞳が、


「……さて、始めようか」


ー雛香。



「スケジュールが詰まってるんだ。手っ取り早く終わらせないとね」



うっすら笑った雲雀の両の手の内で、鈍色のトンファーが静かに光る。






ーどうか、次に目覚めた時は。




君がいる世界で、ありますように。


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