雲対霧、そして 「ボンゴレ雲の守護者、雲雀恭弥、そして……お前は、10年前の宮野雛香か」 「…?」 素早く状況を把握した幻騎士の前、 名前を呼ばれた雛香が眉をひそめる。 「…君と会うのは二度目だね。霧の幻術使い」 「そうだな。雲の守護者よ」 「…は?何雲雀、お前あの丸眉毛と知り合いなの?」 「そうだね。知り合い、かな」 対峙する両者を見やり、雛香がすっとんきょうな声をあげる。 それに呟くように答え、新たなリングを付け替える雲雀。 「僕は術士が嫌いでね。這いつくばらせたくなる」 途端、 燃え上がる、紫の炎。 「まあ、彼に関してはー個人的な恨みの方が、強いかな」 「−え、」 それはどういう、 雛香が問いただすその前に、 目にも止まらぬ速度で雲雀は前へ飛んでいた。 「……なるほど、できる」 雲雀の匣兵器を切り裂き、その内より飛び出した幻騎士が口を開く。 そのまま自身が作り出した幻覚の蔦へ、体を絡ませると姿勢を安定させた。 「貴様ならオレの好敵手になりえるかもしれんな」 「それはどうだろうね」 対する雲雀は、いつもと何も変わらない。 無表情にロールを匣に戻すと、レプリカの匣を取り出した。 「僕の好敵手にはそう簡単にはなれないよ」 「−雲雀!おいっ!!」 2つの匣に炎を注入しながら、雲雀は後方で叫ぶ少年の声を聞き流す。 「−無視すんなお前!俺にも戦わせろっての!!」 「そう、精々あの子くらいだね」 僕の好敵手と呼べたのは。 後ろで不機嫌な声をあげる雛香にはギリギリ届かないであろう、 加減された声量で付け加えられた雲雀の囁きに、幻騎士はピクリと眉を上げる。 「…オレを、恨むか」 「そうだね。心の底から憎んでいるよ」 淡々と返す雲雀の顔を、天井から見下ろす幻騎士。 「…もとはと言えば、貴様を殺す筈だった」 「知ってる」 「宮野雛香は無傷で連れて来いというのが、白蘭様の命」 「それも聞いた」 遠くで1人、雛香の叫ぶ声がくぐもって届く。 ちらり、幻覚の草木に覆われ地に埋もれる幾人かの横顔を見つけ、雲雀は静かに息を吐いた。 鮮血の飛び散った頬に、ぐったりと目を閉じるその姿。 自分が知っている24の彼より、ずっと幼いその横顔。後方で叫ぶ兄と、よく似た面影を宿す顔だ。 …間に合わなかった、か。宮野雛乃。 後方で佇む彼が見たら、一体どんな反応をするだろう。発狂しそうだ。 そんな考えが頭を掠めていったのは一瞬で、次には目の前の獲物に意識を集中させていた。 「…まさか、宮野雛香自身が、オレの剣先の前に飛び込んでくるとは」 「彼はずいぶん自己犠牲が好きみたいでね。10年前から変わらない悪癖だ」 次々と言葉を交わしながらも、 両者は互いにその手の内で炎の圧力を高めていく。 「……次こそ、必ず貴様を葬る」 「望むとこだね」 空を、二色の炎が彩った。 「君の幻覚は頭の中の想像を映像化したものだ。…映像処理が間に合わないほどの負荷を君に与えたら?」 「!」 振りかぶったトンファーの影、双剣を薙いだ幻騎士が眉を寄せる。 「く…」 「やはり、」 高速で叩きこまれる雲雀の攻撃に、勢いよく下がった幻騎士の口から、初めて焦燥の声が漏れた。 その前、頭上を見上げ呟く雲雀。 「綻びはじめたようだね。…これが、君の匣兵器」 「幻海牛〈スペットロ・ヌディブランキ〉。姿を見たのはお前が初めてだ」 「それは光栄だね」 「そして、最後の1人となる」 言い終える前に、空を緩やかに落下していた幻海牛の動きがピタリと止まる。 明らかに、その下で佇む雲雀をー標的にして。 「幻覚を構築する海牛自体が、破壊力を持っている、というわけか」 何の動きも見せず、つまらなさげに雲雀はトンファーを閃かせる。 その目前、次々と迫る幻騎士の海牛の群れ。 だが、その鈍色が振りかぶられる、その前にー 「地獄の業火〈フィアンマ・デラ・インフェルノ〉!!」 ードス黒い炎が、どこからともなく巻き起こった。 「……雛香、」 「お前ばっか戦ってんじゃねーよ馬鹿」 雲雀の前を塞いだ雛香が、むすっとした顔で振り返る。 その先、次々と消滅していく海牛の数々。 いつの間にやら馬並みのサイズに成長したケルベロスが、その傍らで得意げに尻尾を振ってみせた。 「ー俺にも戦わせろ。雲雀」 |