救援 「…こっち、だ!」 「雛香、君の感覚に間違いはないんだろうね」 「ああ。…むしろ、間違っていて欲しんだけど」 焦った表情で唇をぐっと噛み、雛香が白い壁に両手で触れる。 「…この向こう、に…」 「君の弟が?」 「…わからない。ただ、すごく…」 「すごく?」 「……嫌な予感がする」 心配の色をありありと浮かべた顔を見下ろし、雲雀は微かに嘆息した。 そのまま、ぐいと小柄な体を脇に押しやる。 「…え、」 「君はどいてて。ここは、僕がこじ開ける」 何か言いたげにすり寄ったケルベロスを完全に無視し、 雲雀は自身の匣にリングを嵌めた。 「……ボンゴレ、雨の守護者よ」 床に伏せ、動けずにいる山本へ、幻騎士は静かに言葉を紡ぐ。 その後方、同じく血に塗れぴくりともしない雛乃。 「貴様に敬意を表し、我が剣最高の一太刀で葬ってやる」 ゆっくりと上げられる、藍色の霧を纏った刃。 その下、山本は微かに呻いたが、それ以上動くことは叶わなかった。 「若き門外顧問を庇い、このオレに勝負を挑んだ…その姿勢は賞賛に値する」 雛乃は、動かない。 ラルは苦しげな顔で目を閉じたまま。 「−さらばだ」 鈍く光った切っ先が、山本の首を貫く間際ー ドゴオォッ!!! 「……っ、お前な、こじ開けるっつっても程があるだろーがッ!!」 「煩いね、こうするのが1番手っ取り早いでしょ」 「お前は慎重さとか繊細さとか、どこの地の果てに置いてきたんだ…」 粉々にヒビ割れ沈む壁の向こう、 白煙と瓦礫に包まれて、2つの影が、そして奇妙な球体の影が、浮かび上がる。 「……な、」 「ああ、君…ちょうどいい」 呆然と立ち尽くす幻騎士の前、 球針態を引き連れ現れた雲雀が、僅かな動揺も見せず堂々と歩み進む。 その真横、呆れ切った顔で並ぶ黒髪の少年に、悠然と付き添う3首の黒犬。 「ー白く丸い装置は、この先だったかな?」 パリン、 軽い音を立て、雲雀の指先でリングが砕けた。 |