幻と幻 ギィイイィン!! 「ー!」 「ーなに、」 驚きに息を呑む2人の前、 うっすら不敵に微笑んだ、雛乃が口を開き言う。 「…少し前、変な夢を見てね、」 その眼前、 ギリギリと音を立て交わる、 藍色の炎を纏う剣と、ワイヤー。 「…ファミリー初代ボスだとかいう、僕そっくりな人に…」 目を光らせた雛乃の指先で、 暗い青に燃え上がる鈍色の指輪。 「−これからは、このリングと炎を使え、って言われたん、だっ!」 「!!」 瞬時に距離を取った幻騎士の前、藍色の炎が爆発的に溢れ出した。 「…さーて、」 ゆらり、雛乃は立ち上がると、 炎を宿らせたワイヤーを掲げる。 「…とりあえず、雛香は一体どこにいるの?」 「……なるほど」 雛乃の指から溢れる藍色の炎を見、 幻騎士はくっと顎を引く。 「何年経とうと、兄を想うがゆえのその闘志は…変わらないと、そういうわけか」 「?ごめん、やっぱ何言ってるか意味不明」 でもね、と雛乃は笑みを深める。 「…なんていうかな、君を見てると何となくー」 不愉快に、なるんだよね。 言うが早いか、 雛乃の姿がぶれ、消えた。 「…ほう、幻術の腕もそれなりのようだ」 「っ、むっかつくなあ、余裕顔して…ッ」 ギリッと歯を噛み締めた雛乃の先、 本体をいとも容易く見破った幻騎士が剣を振るう。 3人にバラけていた雛乃の姿は、バシャリと耳障りな水跳ねとともに1つへ戻り、地に降りた。 「…やっぱ修業不足かな。雛香を探す傍ら、けっこう一生懸命扱ってたんだけど」 「その歳でこれほどならば、行く末は有能だろう」 「君に言われても何も嬉しくないよ、ゲンキさん」 「…幻騎士だ」 若干顔を陰らせ、幻騎士が一歩近づく。 対する雛乃はむっすり顔でワイヤーを構え、 「ーどっちでも、いいよ」 一瞬で、姿を消した。 「……!!」 「かかったね」 ぶしゅ、 あっけないほどに軽い音を立て、幻騎士の肩口から血が溢れ出す。 その頭上、しならせたワイヤーを両手に、幻騎士の肩を切りつけ悠然と微笑むー雛乃の姿。 「話してた方は幻。その隙に僕自身の姿を消して、上から切りかかったってわけ」 「……3体を1人に戻した時点で、全て幻だったという事、だな…」 「その通り」 血でぬめるワイヤーを手に、 ふらつく幻騎士の背後に降り立った雛乃が、振り返りざまにうっすら笑う。 その目に宿る狂気の色は、10年後の彼より遥かに強く、あぶなく危うげに煌めいており、 そして、 「……ッ…?!!」 次の瞬間、 あっけなく、大きく揺らいだ。 「雛乃!!」 「なっ…ん、で……」 「かかったのは、お前だ」 叫ぶ山本、 その遥か先でぐらり、膝をつく雛乃の姿、 ただ1人、平然と佇む幻騎士。 「…あ、っ、う……」 「残念ながら、お前の幻覚は見破り済みだ。先ほどお前が切りつけたのは、オレではなくまやかしの方」 「…あ、は…なる、ほど、ね……」 肩と背中、並中の制服を鮮やかな血色に染め上げ、雛乃が大きく顔をゆがめた。 くっ、と唇を噛んだその横、額から一筋の赤い血がつつっ、と伝い、静かに床へ波紋を描く。 「その傷では動けまい」 「っ…ぐ、…」 「雛乃!!」 山本の絶叫が炸裂する。一瞬で水を蹴り上げ、山本は刀を手に幻騎士へと走り寄った。 ーだが。 「…今度こそさらばだー宮野雛乃よ」 水面に、赤い雫が散った。 |