霧の戦い 甲高い金属音が鳴り響く。 激突した2人は、瞬時に互いを突き飛ばすようにして距離を取った。 バシャ、と余韻に水が跳ねる音だけが小さく響く。 「…なるほど、よく出来る…ボンゴレが誇る二大術士の名も、伊達では無いようだ」 「その言い方やめてくれない?」 藍色の炎を両手に絡めたワイヤーに宿し、 うっすら笑みを浮かべた雛乃は、唇をゆがめる。 「骸と一緒にされるなんてゴメンだね」 「だが」 幻騎士はすっと双剣を構えた。 その瞳は初めと変わらず、何にも動じず揺らぎもしない。 「所詮ワイヤーだ。そして……」 ぐにゃり、その姿が2つに、 否、 "4つ"に、分かれる。 「貴様の幻術は、オレの足元にも及ばない」 空を切る轟音とともに、 四方から迫る白銀の刃。 「ッと…!、前半はっ、認めて、あげるっ、よ!」 「?」 全ての剣先をよけた雛乃は、微かに微笑んだまま綺麗に床へ着地する。 眉をひそめた幻騎士は、同時に4本の腕を薙いだ。 それらを最低限の動作で避け、ワイヤーで弾く雛乃。 「僕の、この武器は…ッ、近距離戦に、向いてない、んだ!」 タン、 突如後方に飛んだ雛乃を、4人の幻騎士の刃が追う。 だがその切っ先が届く前に、藍色の炎が再び噴き荒れた。 瞬時に匣にリングを嵌め込み、雛乃は愉しげな笑顔を見せる。 ただ唯一ーその黒い瞳に、氷のように冷え冷えとした殺意をみなぎらせたまま。 「−オルトロスの閃光〈ランポ・ディ・ルーチェ・オルトロ〉!!」 空へ投げられた匣から、真っ白な光が溢れ出した。 「…!これは…」 「オルトロスが生み出した光で作り上げた、強力な幻覚による理想郷〈ミーオ・ユートピア〉。…気に入ってもらえたかな?」 幻騎士の周囲を覆うは緑の草花、 色鮮やかに咲き乱れる赤に黄色、そして広がる澄んだ青空。 「なるほど…」 「君が作ってた幻覚のフィールドの中に、もうひとつ幻覚世界を作り上げてみちゃった、ってワケ」 「!」 ニコリ、口角を上げて笑む雛乃に、幻騎士は目を見開いた。 「…部屋が幻覚だと、気が付いていたのか」 「当然。山本と戦う気だったんでしょ?足場、あんな動きづらい水で満たしてさ」 「……貴様」 「何その顔。甘く見ないでよ、僕は宮野雛香の弟だよ」 そう言って笑みを深めた雛乃の横、静かに寄り添う二首の犬。 足元を埋める色とりどりの花々と青空を背景に、その景色は奇妙なほどに穏やかでのどけさに満ちていた。 「いや、違う…貴様、思ったよりも落ち着いているのだな」 「あは、そう?まあ、我ながら昔に比べたら、随分抑えが効くようになったとは思うけどね」 傍らのオルトロスから、藍色の炎が噴き上がる。 「でも、お前は絶対殺す」 にっこり、狂気的なまでに鮮やかな笑顔を浮かべ、 雛乃は雲ひとつない空を後ろに宣言した。 |