因縁 「やべえな、雛乃…どうする?」 「とりあえずこっち進もっか。マップは多分役に立たないっぽいし」 「え?!あ、ほんとだ」 分断され獄寺と笹川から引き離された、 雛乃・山本組。 よいしょ、とラルを背負い直した雛乃の後ろ、薄い小型端末を見た山本は、驚きの声をあげた。 「使えない、となると…」 「シッ、山本」 「え」 どうする?と問いかけようとした山本の唇に、突然雛乃が人差し指を押し付ける。 わけもわからず唇を押さえられた山本は目を白黒させたが、雛乃の顔を見ておし黙った。 と、ほぼ同時ーやや離れた扉の向こうから感じる、殺気。 (…こりゃ、気づかれてるな) 目を合わせ、互いの心中が一致したのを確認する。 雛乃は静かに腰を上げ、山本もそのすぐ後を気配を殺してついていった。 物陰で一旦停止、 目と目で合図したその1秒後に、 ほぼ同時に2人は前に飛び出し、そしてー。 「……わーお、ここで会っちゃったかー…」 「え?雛乃、知ってんのか?」 「……貴様は」 片隅にラルをそっと下ろし、雛乃が苦笑に近い笑みを浮かべる。 だがその目に確かに浮かぶのはー鋭い、殺気。 「…いいね。わりとずっと待ってたんだよ、この機会を」 「雛乃…?」 「ボンゴレ門外顧問、宮野雛香の弟…宮野雛乃か」 「その通りだよ。霧のマーレリングの保持者…幻騎士」 ざわり、肌を震わすほどの殺気を放ち、不穏な笑みを浮かべる雛乃の姿に山本は息を呑む。 その表情は、ひどく酷薄かつ残忍でありー 「そして……雛香を殺した、その元凶」 10年前の雛乃が何度か浮かべてみせた、あの歓喜と狂気を内包させた冷たい笑みに瓜二つだった。 「山本、悪いけどココ僕に一任させてね」 「!雛乃、」 「ごめんね、抗議は聞かないから」 背負っていたラルを山本に押し付け、有無を言わさぬ口調で雛乃がこちらに背を向ける。 「雛乃、待て!気を付けろ、そいつスクアーロのDVDに出てきた…」 「ワザと負けてみせた100人目の奴でしょ、知ってるよ」 前へ進みゆく雛乃の背に、山本は声を張り上げたが瞬時に一刀された。 どんどんと進みゆくその黒い背中は、ちらとも振り返ることはない。 「…ほう。兄の仇か」 「は、仇?違うよ。そんなわけないじゃん」 「…兄はそんなもの望まない、というわけか」 「うん、まあその通り。だからこれは僕個人の僕が望む雛香のための殺人行為」 「…何を言っているか、今ひとつ明瞭でないな」 「にっぶいなあ。簡単な事だって」 ぱしゃり、水の満ちた床へ何のためらいもなく足を踏み入れ、匣とリングの嵌まった片手を掲げながら、雛乃はうっすら笑ってみせた。 嬉しそうに、愉しそうに、 そしてー憎々しげに。 「雛香にその首捧げてあげる、って言ってんだよ」 刹那、藍色の炎が噴き荒れた。 |