入れ替わりの前に 閉じゆくメインゲートに、囮役をツナに任せた雛乃たち一行は先へ先へと進んでいた、 そこへー。 「我、汝らの血と肉を所望す……」 現れたのは、ターバンを巻いた屈強な男と大蛇の匣兵器。 「なっ…」「でかいぜ!」「第7部隊、バイシャナか…わーお」 ヒュウっと口笛を吹いた雛乃の腕に、ふいに押し付けられる意識を失ったままのラル・ミルチ。 「…ええと、僕にラルを預けるってことはー」 「ここはオレに任せろ」 「!お前、戦う気かよ芝生頭!俺にやらせろ!」 「あー、うん。獄寺もう遅いよー」 「その通りだタコ頭。悪いが、」 笹川の手元で、輝く匣。 「−もう遅い」 その内から、輝く巨体が飛び出した。 「……ってわけでアレが笹川先輩の匣兵器、"漢我流"でーす」 「やっぱあれカンガルーか!イカスな!」 「思ったよりノーマルなネーミング…」 「あは、獄寺それ漢字見てから言った方がいいと思うよ」 傍観者モードに入った雛乃の横、ふと獄寺が訝しげに首を回した。 「…そういや、さっきから動いてねぇが…てめぇは、戦う気ねぇのかよ」 「あー、僕?基本的に獄寺達に任せるよ」 雛香が絡むんなら誰が何と言おうと全力で戦うけど、とにっこり笑えば、ああそうだろうな、とどことなくげんなりした顔になる獄寺。 「……それに、僕はそのうち…」 「?何か言ったか雛乃?」 「なんでもないよ山本ー」 きょとん、とこちらを向いた山本に、雛乃は再び笑みを浮かべる。 チラリと腕時計に目を落とせば、少しずつ、しかし確かに時を刻む分針。 ーそれに、僕は…。 ふう、と密かに息を吐き出し、雛乃は激突する笹川と大蛇へ視線を戻す。 脳裏に浮かぶのは、幼い余韻を残す大切な兄の顔。 しまったな。 心の内でそっと呟き、苦い笑いを噛み殺す。 ー雲雀さん、最後に一発殴りたかったのに。 遠く離れた地点で、同じように腕時計に目をやる人物がもう1人。 チカリ、灯りに反射し光る文字盤に、雲雀は切れ長の目を細めた。 「…もうすぐ、かな」 「は、何がだ雲雀?」 「いや」 手首から目を離し、雲雀は雛香を抱き直す。 「なんでもないよ」 「ああそう……で、俺はいつになったら地面に両足つけれんのかな?」 「煩いな。静かにしてなよ」 「恥ずかしいんだよいい加減!」 「どうせ誰も見てないよ」 「ケルが見てるっての!!」 あれこれ言いながらも、一応雲雀の腕の中に大人しく収まりはする、そんな雛香の姿に口角が上がる。 だが次の瞬間には笑みを消し、雲雀は前へ顔を上げた。 目の前には、ぽっかりと口を開ける大きなダクト。 ー宮野、雛乃。 ごめんなさい…こんな未来があるとわかっていたなら。 ありがとうございます、雲雀さん。 雲雀さんなんて、やっぱ嫌いだ…ううー。 ちょっと答えてください返答次第では確実に殺します。 「…一発くらい、殴らせてあげても良かったかもね」 ぼそり、静かに付け加えられた言葉は、 呟かれた相手に届くことなく、黒々としたダクトの入り口へ、深く深く飲み込まれていった。 |