先へ先へと進みゆく 「−おまえ達だけで行け」 動かないラル・ミルチの言葉に、真っ先に反応したのは雛乃だった。 「ラル…さっきジジンジャーと戦った時に、無茶しすぎたんだね」 「うるさい、少しはしゃぎすぎただけだ」 「体、つらいんだ」 心配そうに膝を折り顔をのぞき込むツナに、さっと横を向いたラルは強い口調で言い放つ。 「いいから行け。…足手まといになるのはゴメンだ」 瞬間、 「「「「「ダメだ!!」」」」」 5つの声が、ぴったり重なった。 「……な」 驚きに目を見開くラルの前、真剣な顔でツナが口を開く。 「俺達は作戦を成功させて、誰ひとり欠けることなく帰るんだ!」 「そーだよラル、僕らは言いつけ通り見捨てていってあげるような、そんな優しい神経してないしね」 ニッコリ笑った雛乃が、膝をつきツナの横に並んだ。 「…沢田、雛乃……」 「良い感じを極限に壊すようで申し訳ないが、」 ふいに、笹川の表情が険しくなる。 その視線の先、モーター音とともに閉じゆくゲート。 「…敵が、メインルートのゲートを封鎖し始めたようだ」 「げほっ」 「大丈夫かい」 ひょい、と膝をさらわれる。 「!ちょっ、お前な、」 「何。ていうか匣兵器、匣に戻しなよ」 なんてことなく雛香の体を横抱きにかかえた雲雀が、ちらりと横へ目を向ける。 ミルフィオーレの群れが床に死屍累々と転がる真上、炎の勢いを抑えたケルベロスがこちらへ悠々と駆け戻ってきた。 「嫌だ。ケルを匣に戻すなんて、可愛すぎてできない」 クゥーン、と図ったように傍らにすり寄った3つ頭の匣兵器が鳴く。雲雀は心中でため息をついた。 先程まで敵が怯むほどの叫び声をあげていたのが一転、どうしてこうも主人の前だと従順な犬のように大人しくなるのか。あまりの変わりように、もはや呆れかえるしかないレベルである。 「…なんでもいいけど、とりあえずミルフィオーレのアジトに向かうよ」 「…ちょっと待て雲雀」 「何」 見下ろせば、腕の中からキッと睨み上げる黒い瞳。 「まず下ろせ」 「なんで」 「…わかった。ならせめて背負う方向に考えを変えてくれ」 「やだね。君の顔が見えなくなる」 「…あのな、どうしてお前はそういうことをサラッと…」 見る見るうちに赤くなりそっぽを向く彼に、雲雀はくすりと笑うとそのこめかみにキスを送った。 「!なっ…」 「君の匣兵器を見習って大人しくしてなよ」 「…え、ケル見習えって、あれを?」 「?」 ふと首を巡らせた雲雀の横、 歯を見せ、とまではいかないながらも、6つの目で批難がましく見上げ唸る、すこぶる不機嫌そうな姿。 その尻尾が、苛立ちを表すかのごとくびたんびたんと床を叩いている。 「…ほんと、君って人気者だね。雛香」 さっきまであんなに大人しくしていたくせに、と雲雀は小さく呟いた。 「は、何言って…ってちょっと待て、だからこのまま歩き出すなっての!」 「怪我人は大人しくしてろ」 「いやこんなん掠り傷、って、おい!」 赤くなり腕を振り回す雛香を抱え、すたすた歩きだす雲雀の後ろ、ご機嫌斜めに低く唸ったケルベロスがついていく。 奇妙な組み合わせの3つの姿は、静まり返った大倉庫を後に扉の外へ消えていった。 |