表裏 無事ミルフィオーレのアジトに侵入、 格納庫で遭遇したデンドロ・キラムをツナが撃破し、良い幸先を切っていたのだがー。 ヴー、ヴー、ヴー…。 「!この警報…」 「敵に見つかったのか?!」 「ジンジャーの奴…予告通りに通報したというわけか…ぐっ」 「ムリしちゃダメだよラル、ジンジャーにやられた傷が…」 突如現れた因縁の敵、ジンジャー・ブレッドの爆撃から間一髪で逃れたラルを、雛乃は心配そうにのぞき込んだ。 だがラルはうっとうしげに舌打ちをしただけで、すぐさま立ち上がり決然と言い放つ。 「かまうな、雛乃…今は、すぐに警備システムを破壊に行くんだ!」 「おう!!」 不快な警報が鳴り響く中、ツナ達はいっせいに走り出す。 その1番後ろ、ラルの横へと並んだ雛乃は、腕をかばいつつ走る彼女へ、ちらりと目をやった。 「…なんだ、雛乃。今は、走ることに集中しろ」 「体の調子良くないんでしょ。休んだ方がいい」 「馬鹿言うな、この状況で何を言っている」 前を走るツナ達に聞こえないよう、小声で会話を交わす2人の頭上、警告音は未だ甲高く鳴り響く。 「…ラル、自分をもっと大事にしなきゃ」 「余計なお世話だ」 今にも鼻を鳴らしそうな様子で言うと、ラルは困り顔をする雛乃を横目で見た。 「…その無駄に勘のいいところとおせっかい加減…本当に、よく似ている」 「?」 唐突なラル・ミルチの言葉に、雛乃はきょとんと首をかしげる。 「お前の兄だ。…あいつなら、良い門外顧問になっただろう」 今、次期門外顧問のお前に言うのもなんだがな。 そう呟き前へ向き直ったラルの横顔を見つめー雛乃は、ふっと微笑んだ。 「……違うよ、ラル。雛香は、良い門外顧問に"なっただろう"、じゃない」 そっと、小さく囁かれた言葉は、警報に紛れかき消されていく。 ー良い門外顧問に、"なる"んだ。 「−許可するよ、スパナ。基地の細かい3Dマップを、ダウンロードしよう」 「い、入江様!」 部下の牽制を無視し、入江正一はスパナにボンゴレ迎撃の命を伝え、通信を切る。 「…いいんですか?トップランクとはいえ、スパナ氏はブラック…」 「今はブラックもホワイトも関係ない。ここまで侵入を許してしまったボンゴレを、完全に撃破しなくては」 「そうは言っても…」 「それに、僕も技術畑出身だからニオイでわかるんだ。彼は機械への純粋な熱意で務めてくれている、信頼できる男だよ」 そう言い切り、入江はメガネをかけ直した。 ーそれに、この基地のマップなどくれてやっても、何も困りはしない。 どうせ自分には、メローネ基地という大きな匣があるのだから。 そこまで思考を巡らせると、入江は己の指に嵌まるマーレリングをじっと見つめた。 よみがえるのは、幾人ものボンゴレの影。 『あとは俺が死ぬだけ、かな?』 『その言い方嫌だなあツナ……頼みますね、入江先輩』 『上手くやらなきゃ咬み殺すよ。絶対に』 失った人を、白蘭の脅威に侵された世界を、 ー雛香君を、取り戻すためにも。 「…ああ。必ず」 呟いた入江の言葉は、誰にも届かず消えていった。 |