侵入と攻防 ー敵のアジトは並盛ショッピングモールその地下、… 「こっちだ!」 「走り抜けろ!」 ーオートマモンチェーンカバー、これはリングにフタをして感知させないように、… 「いいぜ」 「あっちか?!」 ー個人同士の連絡を取り合う無線機も優れものです、… 「…う、」 「!雛乃、どうかしたのか?!」 ーあとは地図をインプットした携帯情報端末を持てば準備ばんた… 「〜〜っ!そんなこと、どーでもいいよ!」 「雛乃?!」 全員が息を切らして走る中、突然(小声ながらも)声をあげだした雛乃をツナがぎょっとした顔つきで見る。 だが当の本人はいたってなんとも思っていない様子で、走りながらも器用に頬をふくらませた。 「〜〜ぜーったい!ぜーったいに、なんかあった!!雲雀さんとっ、雛香っ!!僕の見てない隙に、絶対何かあった雲雀さん許さない今度会ったらぐさっところ」 「お前はいい加減本当に口を慎め!それでも24歳か!!」 「歳なんて関係ないよラル!!僕はいつまでも雛香を愛して、」 「見送りに来たわ…て、何を小声で言い争っているの、そこの2人」 「ビアンキ!!」 真横で交わされる大人2人の会話にげんなりしていたツナは、助けが来たと言わんばかりに顔を輝かせた。 並盛ショッピングモールのその地下、発電室の入り口で呆れ顔のビアンキが立っている。 「この中のダクトから、ミルフィオーレのアジトに行けるわ」 「こんな危険なところにまで…」 「京子やハルやチビ達のことはまかせなさい。安心して暴れてくるのよ」 「僕は多分アジトに帰ってからの方が暴れるけどね」 「いいから作戦に集中しろ」 むすっと余計な口を挟んだ雛乃に、ラルの容赦ない手刀がのめり込む。 「っ…相変わらず痛い…」 「馬鹿が」 「…しっかり頼むぜ、姉貴」 「!」 ぶつくさぼやく雛乃達の後ろ、続いて入り口を抜けようとした獄寺がそっけなく言い放つ。 「…いつまでも過去に縛られてたまっかよ。敵の主要施設を破壊し、入江を倒したあとで話がある…」 「ハヤト!」 目を合わせないながらもはっきりと紡がれた宣言に、ゴーグルの奥でビアンキは目を丸くする。 「……雛香のこともな」 ぼそり、最後に付け加えられた言葉にーその背中を見送るビアンキは、そっと口角をつり上げた。 「…ええ。いってらっしゃい」 「ケル。大丈夫か?」 敵を蹴散らし戻ってきた巨体に手を伸ばす。 すり、と一瞬その首を下げて頬を雛香の頬に触れ合わせると、忠実な匣兵器は咆哮をあげ、またも空を飛んだ。 「ケル…」 「まだ来そうだね。当分はここにとどまることになるかな」 「雲雀」 戦闘場所と化した大倉庫のすみ、ケルを送り出した雛香のすぐ横に、黒いスーツの青年の姿。 いったいどこから現れたんだ、と雛香は呆れ気味に思う。さっきまで前線でトンファー振り回してたくせに。 「君は戦わないの」 「ケルが疲れてきたら出ようと思ってんだけど…あいつ、まだいけるってさっきから聞かないんだ」 「主思いの優しい子だね」 「お前と違ってな」 じとり、見上げれば思いのほかすぐ側に黒い瞳があって、不覚にもどきりとする。 「僕は優しいよ」 「どの口が言う」 「今日の戦闘に支障が出ないように、昨日最後までしてあげなかったじゃない」 「……ケルっ!俺が今すぐ変わる!!」 くつくつと喉で笑う声を背景に、雛香は慌てて飛び出した。 銃を取り出し明るい炎を宿らせながら、熱くなる頬に舌打ちをする。 こういう時にああいうことが平気で言える、あいつの神経はどうなってんだ、 と内心ぶつぶつ呟きながら。 「…馬鹿だね」 俊敏に遠ざかっていく、その小さな背中を眺め雲雀はくすりと笑う。 視界の端、次々と増殖するロールの隙間からにじり出るミルフィオーレの隊員服を発見し、雲雀はトンファーを構え直した。 「……もうすぐ、会えなくなるのに」 やはり、最後までしてしまえば良かったかもしれない。 らしくない、感傷的な己の気分に鼻を鳴らし、 雲雀は一気に敵の元へと踏み込んだ。 |