錯雑の行方 全身が震える。 ただただ息を呑み、動けないでいれば、するりとシャツの下から滑り込む低い温度を感じた。 「!なっ、隼人ッ、」 慌てて手首を掴む。だがあっさり振り払われ、逆に手首を捕らえられ動けなくなる。 「これ以上やんなら、ってさっき、」 言いかけ、睨むつもりで顔を上げて、 喉が詰まった。 こちらを見下ろし、近付く獄寺の顔がー 今まで見たことが無い表情を浮かべているように、見えて。 「…隼人?」 「…雛香」 名前を呼ばれると同時、唇が重ねられる。 とっさに首を振ろうとして、首筋がピリリと痛んだ。 ーさっき、噛まれた箇所。 雛香。 繰り返し繰り返しー名前を呼ばれる。 まるで宥めるように、言い聞かせているかのように。唇を重ねてもなお、脳に直接響く気がした。 「ん、……ぅ、」 「……ふ……」 逃げ腰になったところへ、ぐっと背中を抱き寄せられる。 密着する体の温度と痺れていく頭に、抵抗しようとするたび脳内に自分の名を呼ぶ声が響いてーもう、わけがわからなくなった。 「…ふぅ、っ…」 「…ん、……」 喘ぐ。はあ、と漏れた吐息が大きく響く。 この夜中に、とか決戦前夜に、とか、微かな理性が何か言っているけれど、ほとんど頭に残らない。 ただ離された唇が、もう一度貪るように再度噛み付かれるのを、ぼんやりとした視界でなんとなく感じただけだった。 「…っ、は、なれ、…っ」 「…雛香…っ、」 ひゅっ、と喉が鳴った。 ずる、と今度こそ背中が滑り落ちる。足元の感覚はもう無い。ただ肩がすくんだ。 涙で滲んだ視界で、わずかに映る獄寺の顔にーそれでも、痛みを感じた。 バカだ、そう思う。 どちらが馬鹿かはわからない。どちらもかもしれない。一方的なベクトル方向。 俺は雲雀が好きで、隼人は俺が好きで、そして雲雀は何も読めない。何も掴ませない。何も好きじゃないのかもしれない。 だから、バカだー大バカだよ、隼人。 そんな顔をするくらいなら、今すぐに、 ずる、と背中が滑る。 絡むような水音が背筋を震わせる。 ー今すぐに、やめればいいのに。 もう何度目かもわからない深い口付けに、 ぐらり、意識が暗く遠のいた、その時。 「……雛香」 遠く、けれど明瞭にーあの声が、聞こえた。 |