雛香の策 現在、 ツナは冷や汗をかきながら固まっていた。 「ツナは柔と剛の炎を使った新技、獄寺はSISTEMA C.A.I.〈スイステーマ シー・エー・アイ〉の完成と瓜、山本も〈剣帝への道〉を解禁…」 否、ツナだけではない。 その隣、瓜を従えた獄寺と時雨金時を手にしたままの山本も、どうにも動けず硬直していた。 「……つまり何が言いたいの?」 「つまり……」 トレーニングルームの真ん中、 張り詰めた空気のその源で。 「俺にも開匣させろ雲雀!!」 「やだ」 「〜〜ッ!こんっの融通効かねえ鳥頭っ!」 「言ったね」 ー非常に低レベルな闘いが、勃発していた。 「…ええーと、コレはどういうことだ?ツナ」 「俺にもよくわかんない…急に雲雀さんと雛香が来たと思ったら…」 「僕とツナが修業してたのを邪魔されたんだよねー、2人に仲良く」 「ひぃ、雛乃、顔が、顔が怖いよ…!」 「つか、なんでてめぇがここにいんだよ野球バカ」 「えー、俺は小僧が息抜きも兼ねてツナの様子を見に行くか、って言うから。そういうお前はどうしたんだよ、獄寺」 「俺は休憩ついでに、10代目に差し入れでもしようと思って来たんだよ」 「ほーんとほんと、トレーニングルームならもう1個あるんだからそっち使えばいいのに。なんでわざわざ見せつけにくるかなあ」 「雛乃が……般若みたいな顔してる…」 隣から滲み出る殺気に、ツナは肩を震わせた。もうやだ、この人怖い。 「…見せつける?」 「そーだよ」 眉をひそめた獄寺に、雛乃はプイッと横を向き年不相応にふくれてみせる。 「わざわざここに来たってことは、僕ら全員に見せつけにきたんでしょ」 「え…2人の仲良し具合を?」 「んな訳ないじゃんツナ、本当にそんなんだったら雲雀さん潰す」 「ひっ、ひぃいい!」 いつもの朗らかさゼロで返答されました。怖い。 「ああ言いつつも、雲雀さんやる気だよ」 不意に真顔になると、雛乃は火花を散らす2人へ目を向ける。 「……開匣させるつもりなんだ。雛香に」 「…ッチ、くそ!」 「遅い」 ダメだ。相変わらず隙がない。 苛々と舌打ちをし、ぎりぎりトンファーを避けた雛香は一瞬、背後へ目をやった。 壁際に並ぶ、何人かの立ち姿。 (…雛乃、) 「よそ見?」 「!」 しまった。 豪速で迫る鈍色に、なすすべもなくー。 「雛香!!」 「っ、いってえ…」 真横、壁へ背中から突っ込んだ兄に、真っ青な顔をした雛乃が膝をついて覗き込む。 「雛香君!」「お、おい大丈夫かてめえ!」「雛香、」 騒ぐ観戦者の声をすっぱり無視し、雛香は咳き込みながら手を伸ばした。 目の前で膝を折る、雛乃の指先へと。 「え?」 「悪い雛乃、」 目を見開いた雛乃から、 一瞬でリングをむしり取る。 「今だけー借りる!」 一方的に宣言をすると、雛香はリングを握りしめた。 「ーへっ?!な、」 「雛香」 訳がわからず目を白黒させる雛乃の後ろ、 平然とした面持ちで歩み寄る雲雀。 「もう終わりかい?」 「まさか。むしろ、」 口元を拭い、雛香はリングを持つ手を高く上げた。 「今からが本番だ」 |