いつまでも思い出す 今でも思い出せる。 『こんなところにいたのか、白蘭』 『あ、見つかっちゃったー』 『ワザとらしい。しかもまたマシュマロ』 小脇に抱えた大袋に、彼は呆れた目つきをする。 『美味しいよ。雛香チャンも食べる?』 『い、り、ま、せ、ん。つか仕事しろミルフィオーレボス。なんっで俺があんたの分まで手ぇ付けなきゃなんないの』 『さすが優秀な僕の腹心』 『しねマシュマロ星人』 『わあぶっそう』 毒とともに飛んできた蹴りを、間一髪で回避する。 『チッ。ったく、その素早さを仕事に生かせっての。俺はもう行くからな』 『えー、待ってよ雛香チャン』 『やだね。俺はあんたと違って暇じゃねーの』 『もう』 苛々とそっぽを向く、その可愛いようで可愛いくないそっけない横顔に、ぎゅっと抱きつく。 『?!ちょ、何急に、』 『雛香チャンー』 『っ、なんだよ、てか離れろっ、』 『大好きだよ』 『はっ……は?!なん、なんなんだよ急に!』 『わあ顔真っ赤ー』 『しね!』 脳天めがけて振るわれる拳を、片手で受け止めくすくす笑う。 もう片方の手は当然彼の頭を抱えたままだ。離すだなんてもったいなくてできやしない。 『ねえ、雛香チャン』 『っ……何』 『大好きだから、ね』 ねえだから、 ずっと、僕の側にいて? [白蘭さん!!] 突如わんわんと響き渡る声に、白蘭はマシュマロを頬張る手を止めた。 「ん、正チャン」 [ん、じゃないよ!!無事だったんですね?!] 画面越し、叫ぶ入江の顔はひどく焦っている。今にもメガネが割れそうな勢いだ。 「うん、元気」 [あの伝達係はどこに?!] 「ああレオ君?明日の新聞に乗るんじゃないかな、変死事件か何かで」 [え…] ぴたり、入江が動きを止めた。 [じゃあ…] 「そーそー、彼の中身ね、六道骸君だったよ」 さらりと告げれば、入江の顔色がサッと変わった。 ああ面白いなあ、と白蘭は思う。これだから、彼が何をしていてもついつい泳がせてしまうのだ。 この驚愕の顔が見たいばっかりに。 雛香ちゃんがいたら、呆れ返っただろうなあ。 そんな無意味な考えが、ふと浮かんだ。 [六道骸、って…ボンゴレの霧の守護者ですか…?!] 「うん」 [じゃあ白蘭サン…六道骸を葬ったと?] 「まぁね」 [まぁね、って…] 「それより正チャン、」 未だ状況の飲み込めていないらしい入江に、白蘭はニッコリ笑いかける。 「面白いことになってきたよ」 [おもしろい…?] 「うん。骸君からは直接聞き出せなかったけど、近々ボンゴレは残った力で何か大きなことを企んでそうだ」 [!] 画面に映る、入江の目が見開かれる。 「恐らく全世界規模の攻撃作戦…もちろん、日本も含まれるよ」 [攻撃作戦、ですか?……まさか、過去から来た彼らもこの基地に攻撃してくると?!」 「そーいうこと」 ウンウン、と頷き白蘭は頬杖をつく。 そのまま入江の顔つきが変わるのを、ただ興味深く眺めていた。 『僕が直接やりますよ…彼らの迎撃とボンゴレリングの奪取は』 そう告げ、通信をぶっちぎった入江の顔を思い浮かべる。 クスリ、密かに笑みを漏らして、白蘭はゆっくり椅子から腰を上げた。 「…やっと、始まるね」 骸だけでなく入江をも泳がし、 10年前から来たボンゴレとの戦いに持ち込ませ。 ずっと、この時を待っていた。 『…白蘭、こんなトコで寝てたら風邪ひくぞ』 『えー、じゃあ雛香チャンがあっためて』 『なっ、い、いきなり抱きついてくんな!』 『じゃあ事前報告すればおっけー?』 『くっそ…ほんと、ウザい』 赤らめた目元と真っ赤な耳に、 可愛いなあ、なんて思いながらその黒髪を指で梳き。 「……ねえ、雛香チャン」 次は、僕の側にいてくれるでしょ? 今でも思い出せるのだ。 彼がいた、あのやさしい日々が。 |