開匣まではあと少し 「しっかし意外」 「何が」 迫る炎、右へ飛ぶ雛香。 途端、爆発音が響く。 避けた雛香のすぐ真横、粉々に砕け散る壁の破片。 「…あーあ、また派手に壊して…」 「君が避けるからでしょ?」 「避けるに決まって、って、おっと!」 鼻先を掠めたトンファーに、慌てて雛香はのけぞった。 だが容赦なく入る、次の一撃。 「ちっ」 「ワオ」 銃を乱発する。 防弾済みのこの部屋は、跳弾の心配もない。 それに、どうせ目の前の男は、跳弾した弾すら易々と避けるのだ。いやさすがに試したことはないから、実際どうなのかは知らないが。 「で、何が意外?」 「っ、おまっ、このやろッ」 蹴りが来た。嘘だろこいつ。 とっさに回避、 しかし次に雛香を待っていたのは、鈍色の強烈な打撃だった。 「…げほげほ、かはっ…」 「相変わらず隙が多い。精製度A以上が泣いてるよ」 「けほっ、うっさいな…お前がめちゃくちゃすぎるんだよ」 「リングのランクだけでいったら君の方が遥かに勝ってるのにね」 「あのなあ、」 「何」 平然と見下ろす雲雀に、雛香は口元を引き攣らせる。 「俺には開匣させずに自分だけ匣兵器使いまくっといて、リングのランクも何もねえだろうが!」 「で、何が意外なの」 「聞けよ!」 面倒になると途端に話題を変えるのだ、この男は。 自分本位をそのまま形にしたような相手に、雛香はため息をつき立ち上がる。 一撃をもろに受けた腹がずきずき痛んだ。本当に容赦がない。 「…ツナがさ、作戦決行するとは思わなくて」 「彼なら決行するさ、ってあれほど断言してたのは誰だい?」 「それはそーだけど…状況が状況だしさ」 消息の途絶えた骸、意識の戻らないクローム、戦える身体ではないラルに、好調とは言い難い自分たちの修業進行。 「何、怖じ気付いてるの?」 「はあ?」 挑発するように笑う黒い目。 立ち上がってもなお、ずいぶんと高い位置にある瞳だ。むかつく。 「何言ってんだ?」 鼻で笑い飛ばし、雛香は銃を構える。 「……いいね。その目だよ、宮野雛香」 「何が」 「僕を最高にワクワクさせる、闘る気に満ちた目だ」 「あっそう」 異様に目を輝かせる、戦闘狂に肩をすくめ。 「…次こそ、お前の隙突いて開匣してやる」 「できるものなら」 雛香は、勢いよく地面を蹴った。 |