彼が下す決断は ぴん、と張り詰めた空気の会議室で、 時計の秒針だけが微かな音を立てる。 青い顔をして黙り込むツナ、そして他の面々の暗い面持ちに、机上の空気はかなり深刻なものに陥っていたがー。 ウィイン、という機械音とともに、 「クロームは無事だ、ツナ!」 「雛香くん!」 自動扉が開くのも待たずに飛び込んできた、 1人の少年により場の陰りは一気に払拭された。 「何やってたんだ…って疲れてねぇか、てめぇ」 「ん、まあ……後押し?」 「は?意味不明」 草壁がクロームの状況を説明しているのをよそに、雛香は深く息を吐いて自分の分の椅子を引いた。 その横、声をかけた獄寺はひょいとおもむろに指を伸ばす。 「?!」 「何だよ、動くなっての」 反射的に身構えた雛香の前髪をさらりと撫で、獄寺はあっさり身を引いていった。 「…何のつもりだよ」 「疲れてんな、っつうのを再確認」 「…何のために…てか、前髪分けた意味は?」 「俺が触りたかっただけだ」 「さ、」 思わず絶句する。 とりあえず横を見ないようにして椅子に座った。 下手に口を開けば、なんというかぼろが出そうな気がした。こう、動揺を隠すためなのがばればれの、しどろもどろな態度とか。 軽い罰ゲームみたいな内心の雛香にとっては非常に嬉しくない。嫌かと聞かれたら困るのだが、かといって顔が赤くなるのは不本意だ。不意打ちなのがタチが悪い、本当に。 そのやりとりを見ていた雲雀は、眉をぴくりと動かした。が、そのまま壁に背を預ける。 ちなみにその横、同じく壁際に立つ雛乃はとてつもなく良い笑顔を浮かべていた。心臓が弱い人の閲覧は禁止するレベルの笑みである。 「…だがどっちみち、5日後にクロームは戦えそうにないな」 状況を聞いたリボーンが口を開く。 「…痛いな」と了平は小さく呟いた。 「心配するな」 再び暗くなる場に、凛とした声が響く。 「クロームの不足分はオレが補う」 「そんなこと任せられるわけねーだろ」 真剣な顔で宣言したラルを、しかし一蹴するのはリボーンの声。 「お前、今座ってんのもしんどそうじゃねーか」 「リボーンッ、」 「その通りだよ…ラル、無茶はダメだ」 「何を言っている!!」 ラルの体調不良を知っていたツナは慌てて声をあげるが、その前に雛乃に遮られた。 一方、ラルはキッと睨みをきかせる。 「顔を見れば、お前の体調ぐらいわかる。お前の体は非7線〈ノン・トゥリニセッテ〉を浴びすぎてボロボロなんだろ?」 「?!」 リボーンの言葉に、ツナ達の間に動揺が走る。 だが聞きなれない語句の説明がされることはなく、悲しそうな顔をした雛乃が一歩出た。 「ラル、気持ちはわかるけどダメだ。そんな体で出たとしても、」 「黙れ!何がわかる、お前に!」 「ラル!」 「奴らを倒さなければ、この世界は正常に戻らない!!」 諌めるように名を呼ぶ雛乃、 鋭い目で睨み声をあげるラル・ミルチ。 「だからって、」 「コロネロもバイパーもスカルも…奴らに殺されたんだ!!お前の兄もそうだろう!」 「!」 兄。 雛香は思わず目を見開く。 それを視界に入れ、雛乃は大きく顔をゆがめた。 「ラル、」 「ぐっ」 さらに言葉を重ねようとした雛乃の前、 突如ラルの体がぐらつき、そのまま床に倒れ込んだ。 「ラル・ミルチ!」「大丈夫ですか!」 「馬鹿ラル、だからっ…」 「さわるな!!」 心配の色を浮かべ集まる面々、そして青ざめ駆け寄った雛乃に、しかしラルは拒絶するように声を張り上げギッと睨んだ。 雛香はぐっと唇を噛んだ。 この状況は、誰が何と言おうと悪いものでしかない。 平和主義なツナなら、間違いなく。 「やりましょう」 だがそこに響いたのは、 予想を裏切るような決然とした声だった。 |