I bite you to death! | ナノ

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踏み出す一歩


「……なっ、」
「なんだよ、お前…意外と意識してんのかよ。意味不明」
「は…て、近い!どけ!」
ぐいぐい、と肩を押す。
てっきり突っかかってくると思ったのだが、獄寺はなぜかおかしそうに笑っただけだった。うざい。

「…っくそ、足払いとか卑怯だぞ」
「何が卑怯だよ、訳わかんね」

床に無様に転がった自分の上、
なぜか楽しそうに覆い被さる獄寺の姿。
手は思いっきり押さえ付けられているし足も動かないしと、まあなんとも気分は最悪だ。
くっ、と顔をゆがめた雛香に、獄寺はまたも底意地の悪い笑みを浮かべる。

「てめぇ、ほんとたまに隙だらけだよな。おまけに方向音痴ときた」
「バカにすんじゃねーよこのタコ頭、だいたいなあ、」
「雲雀とはどうなんだ」

思わず、言葉が止まった。

息を呑む。
こちらを見下ろす獄寺の顔に、もう笑みは無かった。


「…どうって…何が」
「修業の相手なんだろ」
「そうだけど」
「…は?」
「は、て何だよ。俺が聞きたいんだけど」
「…何もねぇのかよ」
「…はい?」

拍子抜けした、という顔で獄寺がこちらを見つめる。
訳がわからずその顔を見つめ返し、雛香は眉をひそめた。

「…は?嘘だろ」
「何が」
「雲雀の野郎と」
「うん」
「…何もねぇの?」
「何もねぇよ。てかさっきから何を、」

言ってんだ、
とむっとしつつ体を起こしかけた、

次の瞬間。

「…っは、んだよそれ…」
「え」
「くっ、はは、んだよそれ、笑える、」
「…え、え何、て、ちょっ、お前なっ!」
「く、はは、馬鹿、動くなよてめえ」
「い、みわかんねえこと言うなっての!体重乗せんじゃねえよ、う、わっ」

獄寺の体重に負け、せっかく起き上がりかけていた体がまたも床へとひっくり返る。
上にのしかかってきた獄寺は、肩を震わせそのままこちらの首元に顔をうずめて笑っていた。なんだこいつ。
いらっと来たが動きようがない。なす術もなく雛香は微かに舌打ちをした。

ふるり、笑う獄寺の吐息が耳にかかり、思わず肩をすくめる。
くっくっと声を抑えて笑う獄寺の顔は、思いのほか近い。とっさに目をそらした。

「…馬鹿だな、あいつ…」
「っ、耳元で喋んなってのお前」
「なあ、雛香」
「な、」

んだよ、と言いかけ、顎を指で掬われる。
ぎょっとすると同時、目の前で煌めいた双眸に息が止まった。

「…な、んのつもりだよ、」
「名前」
「は?」
「名前で呼べよ、俺のこと」
「…は?」

すぐ側で瞬く、銀の瞳を見つめる。
きらりと光るその瞳は、楽しそうにこちらを見下ろしていた。
どこか艶やかに、その目が細まる。


「…は、やと?」


するり、

その瞳にうながされるように、
言葉が口からすべり落ちていた。

「ん」

簡素な返答をし、あっさり相手は立ち上がる。
そしておもむろに、こちらへ手を差し伸べた。

(…は、)

思わず雛香は目を見張った。
あの獄寺が手を差し出してきたというのも勿論だったが、
何より、


(…笑って、る)


そう、

獄寺はその口元を緩め、ひどく満足げに微笑んでいた。


思わず顔を背ける。
いや、だって、なんというか。

(…あの仏頂面が、笑ってるとか…)

常に罵りあっているような仲だからか、
なんというか、余計に反則な気がする。
いや、何が反則かなど聞かれてもわからないが。


「…雛香」
「えっ、なに」
「これからずっとそれな」
「え…は?!」
「ついでに送ってってやるよ。どこ行くつもりだったんだ迷子野郎」
「は、別にいらな…て誰が迷子野郎だお前!」
「雛香」

脊髄反射で噛み付いた瞬間、
ぐっと腕を取られた。そのまま引っ張られる。

「…え、」
「やっぱ、選ばれるまで待つのなんて馬鹿らしーから、やめだ」
「は?」
「俺はな、」

ぐい、と強く引っ張られた。
思わずよろめき、獄寺の胸元へとよろめく。


「諦めが悪ぃから覚悟しとけよ」


眼前、鼻先で囁いた銀色の瞳は、
やたら挑発的に光っていた。




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