匣のルーツを辿って それは、数年前のことだったと記憶している。 『…ジェペット・ロレンツィニ?』 『そう。何その顔、君の知り合いなの?』 『んなわけあるか。そんな4世紀も前の生物学者』 『…知ってるじゃないか』 眉を上げて振り返れば、青年は軽く肩をすくめた。 『それくらいは常識だろ』 任務のついで、というよりこちらが本命。 雛香と標的を仕留めた後、雲雀は打ち捨てられた屋敷へと足を運んでいた。 薄暗い屋根裏部屋のすみ、窓に背を預けた雛香がとんとん、と壁を叩く。 『…で?なんかあった?熱心な探求者サン』 『おかしな呼び方しないでくれる?ついでに君も手伝ってくれると有難いんだけど』 『ほんとにこんなトコにあんの?ジェペット爺さんの匣の設計書』 『ジェペットじいさん、て…。噂によれば、343編のうちいくつかは知り合いの手に渡っていたらしい。この屋敷は彼の血縁者のものだ。なくはない』 『つまりそれって、可能性ほぼゼロじゃねえか』 呆れたようなため息をつきながらも、彼は埃まみれの戸棚を開け始める。 『だいたい、今はアレだろ…イノチェン、ケーキ、ヴェンヴェンだったか、とにかく発明家の手に全部渡ってるんじゃねえの』 『イノチェンティ、ケーニッヒ、ヴェルデだ』 手元の引き出しを無造作にあけつつ答える。 何なんだヴェンヴェンとは。適当にも程があるだろう。 匣。超次元的な力を持つ摩訶不思議な物体。 もともとは4世紀前の学者、ジェペットが作り出した設計図上の物でしかなかった。 それを最近、3人の発明家が利用し、プロトタイプを完成、そしてー。 『…でも全部偶然だろ?』 『偶然、ね…にしては出来すぎている』 パタン、と背後で戸棚が閉まる音がした。 首を回せば、なぜかしかめっつらで指に挟んだ己の匣を振る雛香。 『だいたい、お前が見つけてきたコレ…明らかにおかしいだろ。ぜってー発明された物じゃない』 『かつて君のアジトがあった付近で発見した物だ。それにその妙な文様、自分のファミリーのものだと言ったのは君だろう?』 『そうだけど…』 んー、とどこか納得していないような顔で雛香は手の上の匣を眺める。 眉を寄せたその表情を見、雲雀は息を吐いた。 『君の弟のもなかなか奇妙だったけれど…君の匣はそれを上回っているからね』 『ほんとだよな…なんでこんな匣が生み出されたんだ…ていうかどうやって生み出したんだ』 『それを明かすためにこうして調査してるんだろう』 『お前が一方的になー』 そう言いため息を吐きつつも、彼はこうして毎度毎回自分に付き合うのだからよくわからない。 そう、本当にわけのわからない子だ。 『ん、なんだよ雲雀。腹減ったの?』 きょとん、と小首をかしげる雛香。 ため息をつく。 そう、本当に、人の気も知らないで。君は。 |