07.


 家族と会えたことが嬉しくて号泣してしまった私達はその後、お母さんは一足先に家に帰り私は擬人化した蒼緋と共に歩いて家に帰ることとなった。
 そう、擬人化した蒼緋とともに。
 遡るは10数分程前のこと。


「さあミライ。そろそろ泣き止みなさい。家に帰るわよー!」
「も、もう泣きやんでるし! ……ていうか、家? え、あ、あるの?」

 ジュンサーさんとお母さん、そして蒼緋の生温かい視線に晒されて思わず顔が赤くなるがそれを気にしないことにした。この世界にも家があることに吃驚だ。
 お母さんは私の質問にきょとんとし、すぐににこりと笑って言った。

「あるに決まってるじゃない。第一お母さんはこの世界であんたのお父さんと結婚したんだからね。家ぐらいあるに決まってるでしょ!」

 お父さん。その言葉に思わず反応してしまう。何せ我が家は母子家庭。父親のことはずっと気になっていたけれど一度も聞いたことがなかったのだ。
 それをお母さんから少しでも聞けたことに驚いてしまった。だってお父さんがいないということは、何かしら事情があるはずだから……。
 そんな私の心情に気づいたのか、お母さんは全ては家に帰ってからよ。そう言って私の頭を無茶苦茶に撫でる。

「ぬわっ――!」
「ミライが無事にこの世界に来たことだし、私が分かる範囲で全部話してあげるわよ。じゃ、悪いけど私は先に帰るわね。最近こっちの世界に来てなかったから冷蔵庫の中に何もないのよ。だからゆっくり歩いて帰って来なさいな」

 ぐしゃぐしゃにされた髪の毛を整える。困ったように笑うお母さんは、今更だけど美人だなあと思った。お母さんは美人なのにどうして私の顔は平凡なんだろうと思う。ジュンサーさんの「本当に主婦なのねぇ」という感嘆したような声を聞きつつ極々当たり前の質問をした。

「お母さん、私この世界の家がどこにあるのか知らないんだけど!」
「ああ、それなら心配いらないわよ。私ここに来る前に近所のおばさん達に娘がこの世界に来るからよろしくお願いします! って言いふらしておいたから」

 いい笑顔で言い切ったお母さんに思わず頭を抱えてしまう。実の母親だけれどどうか言わせて欲しい。無茶苦茶だあんたは。言いふらすだけで家にたどり着けるものなの?

「あ、それから蒼緋君。悪いけど擬人化して来てくれない? ミライったら極度の方向音痴でね、この子一人で歩かせると何時間かかるか分からないから……」

(――悪かったな!)
 心の中で毒づいてからため息をついた。自分が方向音痴だなんて分かってる。きっと一生治らないんだろうなー。と遠い目をした瞬間私の隣でわずかに何かが光った。
 ハッとして隣を見ると、そこには蒼緋がいたはずなのに少々目つきの悪い王子様フェイスのイケメンな美少年がいて……。まあつまりは美少年がいて、驚きのあまりよろめいてしまった私をその美少年はしっかりと私の腰に手を回して支えてくれた。え、何このイケメン惚れる。

「うぎゃあああ!? え、誰誰誰美少年誰! てか顔近ッ!」
「煩え。俺だ、わからねえか?」

 赤面して慌てふためく私を微笑ましく見守る大人組2人。そして私を呆れた様子で見て、外見から予想していたよりも低い声で私を落ち着かせた美少年。口調と呆れた視線に見覚えと聞き覚えがある。……もしや。

「そ、蒼緋?」
「以外に誰だと思うんだ?」

 ニヤリと笑いながら言う彼に、失礼ながら顔を良く見せて頂いた。
 身長は私と同じくらい。髪の色は綺麗な向日葵色、というのだろうか。まあ金髪だ。そして瞳は私と同じ空色。肌の色は白くて顔の凹凸は日本人よりも深い。とはいえ西洋人のそれかと言われれば少し違うけれど。目つきは悪いけれど紛れもなく美少年。
 ずっと少年を見る私に意地の悪い笑みを浮かべる彼。見れば見る程蒼緋とは思えないけれど言動が似ているので蒼緋とも思える。不思議な感じ。

「どうした、惚れたか?」
「いやいや。惚れてないけど惚れかけ――って何言わせんの!」

 ああ、やっぱこいつ蒼緋だ。と直感的に思った私は遠慮なく手を振り上げるがその手はあっさりと蒼緋に掴まれてしまう。そして気づいた極々当たり前のこと。

「あれ、服着てる」
「……露出狂の変態とでも思ってたのか?」
「違う! そうじゃなくって……。だって、ポケモンって普通服着てないじゃん」

 そう。ポケモンの時は何も着てないのにどうして擬人化したら服を着てるのか。……そりゃあまあ、着ていなければそれはそれで困るけれど。
 そう思っていると説明された。さも当たり前だと言うかのように。

「いいか。俺達ポケモンには色々な能力がある。その一つがこの擬人化だ。擬人化――俺達ポケモンが人の姿になること。……普通に考えて人の姿になった時に裸じゃ困るだろ? だから擬人化した時には自然と服も着てるんだ。どうしてか――なんて俺にはわからない。どこぞの研究家にでも聞け」

 だ、そうだ。正直説明になっているのか危ういけれど無理やり自分を納得させておく。ちなみに、この世界の人達にとってはポケモンが擬人化するのは普通なのだそうだ。

「それじゃあ蒼緋君、ミライのことよろしくね。じゃあねエミリ。また会いましょう!」
「ええ。たまには遊びに来なさいよ。警察署だけど……まあ、お茶とお菓子くらいはだしてあげるから」

 大人組はにこやかに挨拶をして、お母さんは颯爽とバイクに乗って駆けていく。そして私達もジュンサーさんであるエミリさん――名前で呼んで欲しいと笑顔で脅迫された。エミリさん怖い――に家の方角を教えて貰い蒼緋の後について歩く。

「そういえばさ……」
「どうした?」
「……擬人化できるなら、どうしてもっと早くしてくれなかったの?」

 そうすれば私一人でエミリさんの質問――という名の尋問――に答えずに済んだのに! あの時一緒に答えてくれれば私の気力が必要以上に削がれなくてすんだのに……。
 そういうと馬鹿かお前。と視線で語られた。どうしてだ。

「俺が突然擬人化したらお前が馬鹿みたいに驚いて擬人化の説明に話が行くことは間違いないだろう」
「…………」

 正論をぶつけられてしまった。確かにそうだ。まさかこの世界のポケモン達が擬人化するだなんて思ってもみなかったし……。
 自分の浅慮さに呆れてしまってがくりと項垂れた。蒼緋は軽くため息をついて私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


 時々道端で会うマサラの人達は私がお母さんの娘と分かっているのか、親しげに話しかけてくれる。ていうか本当に言いふらすだけで、こんなにも話しかけてきてくれるんだ。凄いよマサラ。なんか人の良さがよく分かる気がする。
 そうしてマサラの人達に聞きつつ歩いて約1時間。ようやく家についた。……ゲームではなんとも思わなかったけれど、マサラタウンって意外と広いんだね。吃驚した。

 そしてもう1つ吃驚。

「……これ、本当に私の家?」
「……ユウキって書いてるぞ。間違いないだろ」


 我が家は異常に大きかったです。どこの屋敷よ、ここ。

「あら、おかえりミライ、蒼緋君。遅かったわね」

 微笑みながら出迎えてくれるお母さんが何故か別人に見えました。

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テーマ「人外ファンタジー」
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