08.


 どこぞの屋敷のようにデカい我が家らしい家の中にお母さんに続いて入る。蒼緋もこんなに大きな家だと思わなかったのだろう。私と蒼緋、二人仲良く戸惑い顔だ。
 リビングらしき部屋に案内されてふかふかのソファに座る。リビングは落ち着いた部屋で、前の世界の家のリビングとあまり変わらなくて少し落ち着いた。

 私の好きなジュースを出されてひとまず一服。

「さてと、何から話そうかしら?」

 何でも聞けというかのようににこりと笑うお母さんに、最初から話してほしいと頼む。正直何が聞きたいのか私でもわからないのだ。
 そう言うと「まあそうよねー」とお母さんはため息をついている。何から話そうか少し悩んでいるみたいだ。

「……それじゃあ、話しましょうか。よく聞きなさいな。――はじまりは、私がまだ15歳の時よ。ミライ、あなたミュウとセレビィのこと知ってるわよね?」
「うん。幻のポケモンだよね」

 幻のポケモンミュウとセレビィ。お母さんの話では、この2種のポケモンは非常に強力な力を持つポケモンなのだという。

「お母さんはね、15歳の時に偶然この世界に飛ばされたのよ。原因はミュウとセレビィのくだらない喧嘩からの力の暴走。その力の暴走を止めようとした伝説のポケモン達のあまりに強力な力のせいで時空に歪みが出来て、偶然歪みの傍にいた私がこの世界に飛ばされたのよ」

 くだらねえ。隣で呆れたように蒼緋が呟いた。確かにくだらない理由だ。
 ていうか喧嘩って……。何してるの幻組2匹。

「この世界に飛ばされた直後、私は伝説のポケモン達に元の世界に帰せって言ったんだけど……。元の世界の座標が分からなかったらしくってね。座標が分かるまでの間、この世界に留まるしかなかったのよ。行く宛てもなくどうしようかと迷ってた時に出会ったのが――私の旦那であり、ミライのお父さんのリヒトよ」

 微笑みながら言ったその名前に私はどきりとした。父親の名前は今日初めて聞いた。
 話の続きを聞きたくて、お母さんに続きを言うように促した。

「まあ、そこから色々あってね。元の世界の座標が見つからないまま時だけが過ぎて……。お母さんはお父さんと結婚したの。――でも、その後ミライを妊娠してすぐに、お父さんは手紙を残してどこかへ行ったわ。この世界から逃げろ。たったそれだけの言葉を残して、消えたのよ」

 消えた。つまりそれは、行方不明。――お母さんによると、15年経った今でもお父さんの消息は分からないらしい。……生きているかさえも、不明なのだそうだ。

「お父さんは始め、リーグチャンピオンだったんだけど私と結婚するのを期に警察官になったのよ。……だから、そのことで何か危ないことに首突っ込んでたんでしょうね。それに私は異世界人で珍しいし、ポケモンとの会話も出来る。狙われる理由は全て揃ってるもの。だからこの世界から逃げろって書き置きして出て行ったんでしょうね」
「えっ――。会話? お母さんもポケモンと会話できるの!? ていうかチャンピオン!? え、私のお父さんが!!?」
「そーよ。でも、ミライがポケモンと会話できるのはお父さんからの遺伝よ。あの人もポケモンと会話できたもの。で、あんたのお父さんは正真正銘リーグチャンピオン。あ、今は元だけどね。歴代最速でチャンピオンになったトレーナーよ」

 なんだと。驚きすぎて固まった私。ポケモンと会話するなんて、珍しいはずの能力なのに私の家族のほとんどがポケモンと会話できるなんて。超絶ハイスペック。
 しかもお父さんは歴代最速のリーグチャンピオン。まさか、昔から平凡が売りの私にそんな天才的な才能を持っている人の血が入っているだなんて思ってもみなかった。驚き過ぎて声が出ない。
 隣で蒼緋が凄く驚いているのもよく分かった。そりゃあそうだろうね。私と会った時めちゃくちゃ驚いてたからね。私が蒼緋と会話できることに。

「チャンピオン諸々のことは今はめんどうだから話さないわよ。で、お父さんがポケモンと会話できる理由は遺伝よ、遺伝。お父さんの血筋はどうしてかポケモンと会話できる力がある家系なのよ。でも、私の場合はトリップ補正って感じ? 急に知らない世界に飛ばされた伝説系のポケモン達がつけてくれたのよ。この会話能力」

 にこりと笑って言い放ったお母さんに瞬時に理解した。ああ、脅したなこの人。悟った瞬間思わず遠い目になってしまった。
 そして吃驚。私がポケモンと会話できるのはお父さん経由の遺伝らしい。
 あ、そういえばお兄ちゃんはどうなんだろう。前の世界で留学中のお兄ちゃん。もしお兄ちゃんにも遺伝してたら、お兄ちゃんのことだから踊り狂って喜ぶだろうに……。

「で、続きを話すけれど私はお父さんの指示通りに無理やりミュウとセレビィと連絡を取って元の世界に頼んだわ。私一人ならこの世界に居ても良かったんだけど……。さすがに子供が2人いる状態で、危険かもしれないこの世界で暮らすなんてやってられないもの」

 確かにそうだ。それに私がまだお母さんの中にいる時だろうから……。お兄ちゃんは5歳、しかもお母さんは妊婦で体を大切にしないといけない時。

「それで無理やり座標を探し出させて元の世界に帰ったわ。……15年間も行方不明だった私が突然帰ってきて皆吃驚してたけど。でも、事情を話すと分かってもらえたわ。子供もいる事だし、何より私が時空の穴から帰ってきた所を家族に見られていたからね」

 そこで思い出したのは今はもういないお祖母ちゃんとお祖父ちゃん。そうか、2人もきっと物凄く驚いただろうな。だって愛する娘が5歳児を連れて妊婦さんになって帰って来たんだから。

「で、10年くらいはずっと前の世界で暮らしてたわ。でもカイトが15歳になった時――私はもう一度この世界に戻ってきたの。カイトと一緒にね」

 突然出てきた名前に驚いた。カイトは私のお兄ちゃんの名前なのだ。

「実は前の世界に戻る時に、約束してたのよ。もしも子供たちがこの世界に来ることを望んだ時は世界を渡らせろってね。カイトは望んだのよ。この世界に来ることを。だからカイトは15歳の時にトリップしたの、この世界に。でもその時ミライはまだ10歳。実はね、この世界では15歳で旅立つのが基本なの。もちろんそれより早く旅立つ子も多くいるけどね」

 そこでお母さんは一旦話すのをやめた。私は大きく深呼吸して今聞いた内容を必死に理解しようとする。
 というかお兄ちゃん、この世界に来てたんだ。5年も前から。……私そんなの一度も聞いたことないんだけど。

「だから、セレビィ達にお願いしたの。ミライが15歳になる時まで、世界を自由に渡らせてほしいってね。で、仮にミライがこの世界に来ることを望めば一家でこの世界に永住。反対にミライがこの世界に来ることを望まなければ私とカイトはこれまで通りミライに隠しつつ世界を渡り続ける。――そしてミライ、あんたは望んだ。この世界に来ることを。だから、あんたはここにいるのよ」
「――……ごめんお母さん、理解するのにちょっと時間かかるっ!」

 よし。内容を整理しよう。……つまり、私がトリップしたのは私がトリップすることを望んだから。――いやまあ、確かに望んだ。うん。トリップしたいと思った。
 で、私がトリップしたからお母さんもこっちに来て……。つまり、は。

「まさか! お兄ちゃんもこの世界に!?」
「ええ。留学って嘘ついてこの世界にいるわよ。今もね」

 なんですと!?
 お母さんの言葉に言葉通り目が点になる。

 どうやら、お兄ちゃんが留学しているのは嘘だったようです。みんな、私に嘘つきすぎじゃないの!?
 今度、ゆっくりお兄ちゃんとお話ししよう。そうしよう。あはははは。
 あ、ちなみに。どうやら私はもう二度と前の世界には戻れないらしい。私がこの世界に来ることを望んだらこの世界に永住らしいし。まあ元の世界に帰りたかったのは家族に会いたかったからだし。別にいいんだけど。

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