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dolce

海が見たい 人を愛したい
怪獣にも 心はあるのさ
出かけよう 砂漠すてて
愛と海のあるところ

***

「もっと怪獣の気持ちになってみて!」
「キャラバンの鈴の音で、忘れてた気持ちを思い出した感じを表現して!」
「Bメロもっとわくわく生き生きと!」
「サビ爆発して!」
「いい!?みんなは今怪獣だから!」

「……指揮者ちゃん熱入ってるね」
「怪獣の気持ちって何ィ?」

***

「木兎まだ声がでかい!周りと合わせて!」
「ここはまだソフトタッチだよ」
「ハァイ!」
「……ソフトタッチ?」

***

「伴奏聞いて!遅れないで!」
「みょうじちゃんも歌に合わせないで、伴奏で引っ張って!」
「2番からは怪獣の気持ちの変化にもっと寄り添って!」

***

「うん、いい感じ!10分休憩!」


熱血指導した甲斐あってか、コンクールが近づいてきてなんとか形になってきた。照れとかでやる気がなかった男子たちもやっと協力してくれるようになっていよいよ大詰めって感じ。

木兎のバカデカ声も強弱を覚えて、今ではサビで逆に土台として合唱を支えてくれている。最初に木兎に音楽記号教えてあげてなんて無茶ぶりしたけど、やり遂げてくれた我らが天才伴奏者は本当にすごい。指揮者用の台から降りてふう…と手首を労わっているみょうじちゃんに近づく


「お疲れ様。手大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」


にこりと笑う彼女は同い年と思えないほど大人びてるように見えた。育ちの良さを感じるというか。多分だけどお嬢様なんだろう。別に人当たりが悪いとかじゃないけど、独特のアンニュイな雰囲気が他の女子とは違うせいで声をかけづらく、あんまり人が寄り付いてもてはやされるタイプではない。これで愛想まで持っていたらきっと目に見えて声をかけられまくってるに違いないけど。

じっと見つめてたら不思議に思ったのか首を傾げて、アイロンとかで痛めたことないんだろうな…という感じの真っ黒で長い髪が揺れる。きれいだと思った。帰宅部の彼女とは今まで接点もそんなになくてしゃべったことがなかったけど、普段何してるんだろう。女子力高そうだし休日はお菓子とか作ってたりして。


「この曲めちゃめちゃ伴奏難しいのに、みょうじちゃん最初から完璧だったし練習でも一回も音外さないしすごいね」
「そんなことないよ」
「なんていうか、ほんと金賞狙える気がする!クラスもなんか良い感じにまとまってると思うし」
「……………………」
「みょうじちゃんの伴奏もさ、なんていうか全部の音がすごくハッキリ聞こえるし、粒揃ってるし、曲に合わせて力強く元気に弾いてくれるからすごく安心するの!」
「私なんか全然だよ、指揮者としてみんなを引っ張る方がすごいと思うよ」
「そ…そうかな?」
「そうだよ」


あれあれ。演奏について素直にすごいねって伝えたかっただけなのに、みょうじちゃんは目を伏せて微笑む。やっぱりきれい。

存在感のあるグランドピアノと儚げな女生徒。雰囲気のコントラストがすごくて、画になるなあとぼんやり思った。

***

「木兎だいぶ良くなったね」
「声でかいけど音痴じゃないから救いだわ」
「だろー!?」


褒められれば嬉しい。我ながらタンジュンだと思うけどやる気が出る。バレーと同じくらい楽しいかと言われればそうじゃないけど、みんなで何か一つのことをやるのは好きだ。

視界の端に指揮者と話すなまえが見える。きっと褒められているんだろう。それなのに相変わらず自信がなさそうで、曖昧に笑っている。変なやつ。素直に喜べばいいのに。


「みょうじちゃんのピアノすごいよね。難しそうなのに」
「そうそう、なんか全然難しく聞こえないというか」


クラスメイトも満場一致ですごいと思ってる。男子だって表立って口には出さないけどそう思ってるのだ。それなのに本人は一向に「私なんか」「私なんて」と言って認めない。褒め言葉は気持ちよく受け取るものだと思っていたけど、そうじゃないやつもいるんだと初めて知った


「どうせ木兎にはわかんないよ」


あの、泣きそうな声を思い出す。
自慢じゃないけど俺はあんまり人の気持ちとかを考えるのは得意じゃないし、女の子の繊細な心とかなんてわかりっこない。でもはっきり言われると気になる。なんで俺にはわからないのか。だから知りたいと思った。

今まであんまり関わりがなかったけど、関わってみればなまえはいたって普通だった。元気いっぱい!みたいなキャラではないけど、高低変わらないテンションが一緒にいて安らぐ。頼ればちゃんと助けてくれるし、見捨てずに根気強く教えてくれる。あといい匂いがする。

基本的に優しい、そして自己主張がないなとも。もっとワガママ言えばいいのに、まるで自分が折れたら物事が収まると思ってそうなくらい周囲に要求しないのだ。


「おいおい、そんなにみょうじ見てどうした木兎ー」
「惚れたかー?」
「…………おー、そうだな」
「は?」


もっと知りたい、なまえのこと。
そんでいつかみたいに笑ってほしい、笑わせてやりたい。俺の手の届くところでワガママを言ってほしいし、可能な限り聞いてやりたいと思う。

この気持ちを言葉にするなら、きっと好きってことになるんだろう。
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