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Tempo di Valse

「最近木兎と仲いいね」
「え?」
「よく話してるっていうか…」
「なまえー!英語教えてー!」
「なつかれてる?」


昼休み、お弁当を食べ終わって友達とだらだら話してると遠くから木兎がやってくるのが見えた。相変わらず声がでかいし目立つ。仲の良い友達を見つけたみたいにニコニコして手え振ってるけど、別に仲良くないし。やめてほしい

私が木兎にまとわりつかれてる状況は割と教室でも当たり前になってきて、というか木兎の対人距離がバグってるのはみんな知ってるので、特に騒がれもせずスルーされてる。呼び方だって当然のように名前で呼び捨てだ。何度かやめてほしい空気を出してみたけど、伝わらないのであきらめた。

友達はにやにやしながら頑張ってと席を立ち、入れ違いで木兎がそこに腰を下ろす


「私英語得意じゃないし、私なんかに聞かないでもっと頭いい人に聞きなよ」
「なんで?」
「頭いい人に聞いたほうが分かりやすいよ」
「おれはなまえに教えてもらいたいんだけど?それに、なまえの説明もちゃんとわかりやすい!」
「う、」
「あと、それやめようぜ」
「それって?」
「私なんか、とかそういうやつ」
「あー……」
「返事!」
「…うん」
「よし」


やめようと思ってすぐやめられたら楽だけどさ。上機嫌でノートを準備するそいつを横目にため息をつく。私が押しに弱いというのもあるけど、人たらしというか、なんというか。木兎はいつでも何にでも全力すぎて、応えなくてはと思わせる迫力があるとつくづく思うのだ









「いやー宿題の部分わっかんなくてさー!助かった!」


再三言っている通り、別に頭がいいわけではないので教えるといってもあれこれ言えるわけじゃない。どちらかというと一緒に宿題をやってるみたいな感じだけど、まあ本人も喜んでるし私も宿題終わったしいっか。

昼休みも残り少ない。机の上を片付けて授業の準備をすれば、木兎は自分の席に戻って頬杖をつきながらしげしげと眺めてくる。


「何?」
「なまえのこと知りたいと思ってるけど、全然わかんねーなと思って」
「そんな簡単に誰かの事わかるほど、人間単純構造じゃないよ」
「そうかもだけど…なあバレーやんね?パス練とか一緒にしたらなんかわかるかも」
「やらない。指とか怪我したら大変だし」
「なんで?」
「………………」


もう怪我したってなんの問題もないのに。長らくの習慣がつい口から出た。
案の定木兎は不思議そうに首をかしげる。


「なんで怪我したら大変なの?」
「大変じゃないよ、全然」
「でも気を付けてるんだろ?なんで?」
「もう気を付けてないってば。私なんかのことそんな気にしなくていいから」
「それやめる約束。私なんか、とか」
「…ごめん」


いつの間に約束になったのか。いつか直るのかなあ、これ。強く言っても効かないとわかったのか、今度は甘えるように低く潜めた声が耳をくすぐる。


「おしえて」


私と同い歳のくせに、背だって私より30cm以上大きいくせに、この妙な弟っぽさはなんだ。いつも無遠慮にグイグイ引っ張るくせにかわいい、とか。どきどきしたのを誤魔化すように、はらりと落ちてきた髪を耳にかけ直す。なんだか言わなくてはいけない気がした。やっぱり押しに弱い


「……………ピアノ、弾けなくなるから」
「そうなの?」
「うん。指を怪我したら練習できなくなるし、練習できなかったらその分どんどん動かなくなる」
「へー」
「だから昔は体育とか見学してたよ」


小学校入るときには、もうボールには触らせてもらえなかったような気がする。指を守るために手袋もしてたっけ。母の言いつけを思い出すと苦い気持ちになった。すべてはピアノのために。母の興味はピアノを弾く私にしかなかった


「なるほどなー!ピアノってタイヘンなんだな」
「ここまで徹底するのはよっぽどだよ。全然、ピアノは楽しいもの…だし」
「ふーん」


そう、ピアノは楽しいものだった、はず。自分で言って少し嫌になる。
私にとってピアノは楽しいものだったんだろうか。今となってはもう、分からないけれど。
-4-