鯨船



空が白みだす頃
海は光を集めて銀色に鳴いた
ガラス一枚挟んだ向こう側
魚が息をしている

ママと弟の寝息を
パパの言葉が揺らした
小さな小さな「すまない」
私は夢へと進む


5才の夏、ママが
こっそり教えてくれた

「この車の秘密のボタン
押すと鯨みたいに泳げるのよ」

重力はどこまで続くのか
ねぇ誰か、ボタンを押して


ウミガメの言葉
マグロの悲鳴
サンゴショウの咆哮
奪ってしまうのなら私に頂戴

すぐに鯨になって
忘れた呼吸を思い出すの
早く朝ご飯を食べなくちゃ
そんな夢へと進む


何も手に入らないから
パパは祈り方も棄てました
私の細やかな希望は
カジキよりも速く泳ぐ

ねぇ誰か、ボタンを押して








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -