とある男の一生 好いていた 心から好いていた けれども愛してはいなかった 恐ろしかったのだ 切れ目の無い幻想の中で 一人燃え尽きてゆくことが 愛に生き、愛に生き 愛に逝けなかった男が一匹 慈しんだのは誰だろう 薄汚れた娼婦か 顔だけが取り柄の歌姫か 声すら思い出せない女房か それとも彼自身だろうか 好いてなどいない 当然好いてなどいない けれども溺れなくてはならなかった 悍しかったのだ 理の利かない無常の中で 想像とは懸け離れた現実が 死に急ぎ、死に急ぎ 死にい添えなかった男が一羽 餌付けたのは誰だろう 懐目当ての成金か 人助けに酔った薬屋か 父を待ち続けてしまった妾腹か それとも時代其の物だろうか 赤い糸で結ばれた 男と女とそれからコカイン 時が誤り、情が誤り 幸か不幸か 死すら平等に行かぬが常 [back] |