深海魚



水深200メートル

何時だったか落ちて来た魚


光を失ったその眼は
今や暗闇さえも忘れてしまった

水圧に堪え兼ねた鱗が
粒になって浮かんで来る

化石に成るまではと
泳ぎ続けて来たけれど
化石に成るどころか
生命の終わりすら見えない

鰓から溢れた空気が
地上に戻って大気を揺らした


いっそ植物なら
お腹も減らないのに

いっそ太陽なら
誰かの力になれるのに

生命が独り占めするには
寂し過ぎる場所で
理由も解らず水を煽る胸鰭に
指示をやることも出来ず

鰭から広がった波紋が
水面に届いて大地を揺らした


待っていた

何を待っているかも知れないで
それでも待っていた


、瞬間

空を目指す様に浮上する身体
痛々しく骨が軋んでも
尚速度を増して
陥没した眼が必死に捉えた

「僕を産んでくれた人が
僕を呼んでいる」


水深200メートル

何時だったか落ちて来た魚
君の涙腺から落ちて来た魚








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