まだ夏の暑さが本格的になり始めた8月入ってすぐだった
きっとバレー部はこの暑さの中練習してるんだろうなー、なんて想像しながらクーラーがついた部屋で夏休み前に一方的にした待ち合わせのために制服に着替える
『夏休みに、ここで、会ってください』
そう言って赤葦君の返事を聞かずに走って帰ってしまった
どんな顔してたかも見てなかった
嫌だったらどうしよう、とか来てくれなかったらどうしよう、なんて考えてたらついに8月に入ってしまって日にち、言えばよかったな、と何回も心の中で後悔する
前髪変じゃないかな、汗臭くないかな、とか変に意識しながら学校へと向かった
学校に着けば急に心臓がばくばくと動き出して、少し息が苦しくなる
トイレに駆け込んで汗拭きシートで汗を拭き、変じゃないよね、うんうん、と鏡を確認して約束した階段の踊り場に少し早歩きで向かった
案の定、彼はいなくて溜息が出る
数週間の間使われていない階段はすこし埃っぽくなっていた、その階段の隅っこに腰を下ろす
途中から赤葦君の都合も考えずに来たものだから期待した分ガッカリしてしまって悲しくなる
壁に体重をかけて携帯を弄っていると最近夜更かししてばかりのせいなのか私はいつのまにか眠ってしまった
ハッ、と目を覚ますと壁の反対側は何故か暖かくてそちらに目をやると赤葦君が携帯を弄っていた
近すぎてびっくりしている私に「起きた?」と携帯をポケットに閉まって私の目を見てくる彼に私は「あ、あぅ、」としか声が出なかった
「あのさ」
赤葦君の手が私の左耳を掠って壁に手をつく
「俺、夏休み入って毎日来てたんですけど」
「へ...」
「へ、じゃないですよ...寝ぼけてるんですか?約束、ここでしましたよね?」
「え、あ、は、はい」
「日付くらい、決めといてください。来ないかと思ってた」
「ぁ、ご、ごめんなさい」
「来てくれたからいいですよ」
そう言って手を戻して前を向いたと思ったらまた横目でこちらを見てくる
「で、苗字さん」
本題に入ったと気づき内心焦る
きっと約束を取り付けた事だ
だって、会いたかっただけ、なんて、あわよくば付き合えたら、なんて...言えるわけ...
「好きです」
「へ!?」
予想外の台詞に驚いて顔が耳まで赤くなるのが分かった
赤葦君の手がまた伸びてきて次は私の頬を撫でる
くすぐったくて少し声が漏れる
「名前もでしょ?」
そう言って私の頬にキスを落として赤葦君は笑った
「...はい」
私が答えると、次、赤葦君は私の唇にキスをした
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