短編 | ナノ
お節介な君


※灰崎くんが美化されてます

「灰崎くん、灰崎くんってば。」
「んだよ聞こえてるよ、うるせえな。」
「あっ、ご、ごめんなさい。」
「はぁ…で、何か用かよ。」
「あ、うん。灰崎くん、また誰かとケンカしたでしょ?」
「ワリィかよ。」
「悪いっていうか、ケガ増えてるし、バスケにも、」
「お前には関係ねえだろ。いちいち突っかかってくんなよな。」
「…ごめんなさい。」
 謝るなら最初から話しかけなければいいものを、いつもいつも、俺がケンカをするだびにコイツが現れては「またケンカしたでしょ。」「お前には関係ない。」「ごめん。」これの繰り返しだ。
別に関係なくはない、なまえは俺の幼馴染で小さい頃からずっと一緒、いや、なまえがずっと俺に引っ付いてると言ったほうが正しいかもしれない。それゆえ何かとからまれていた。だからこそ今は関係あるのはダメなんだ。なのにあいつは俺のところへ来る。何のために俺が…
「もう用が済んだのか?だったらさっさとどっか行けよ。」
「あ、うん。じゃあね。」
毎回毎回、あいつもよく飽きねえモンだな。結果なんて目に見えてんのに。でもまあ、もうそろそろ諦めるだろ。
なんて思ってた俺があまかった。
 2年に進級しても特になにも変わることはなく、いつも通り遅れて部活にいった。体育館に入るといつもと様子が違って、なんだか嫌な予感がした。
「今日から一軍マネージャーになりました。みょうじなまえです。よろしくお願いします。」
ああ、悪い予感というのは、どうしてこうも当たってしまうのか。本当に、あいつの考えていることは分からない。イライラする。なまえが俺に気づくとぱぁっと表情を明るくさせ、こっちに走ってきた。
「これでもう関係なくないよ。」
やられた。何なんだもう。なんであいつはこうも俺に関わろうとするんだ。
俺は舌打ちをひとつして練習に向かった。
(イライラする。)
 あれから数日経った頃、黄瀬涼太という男が入部してきた。バスケスタイルが俺と似ていて何故かおれに敵意を向けてくる。意味が分からない。そんで気に食わねえ。最近ではやたらとなまえに話しかけている。大方モデルとかに関心のないあいつを気に入っての行動だろう。
でもまあ、これでもうあいつは俺に構うことはなくなるだろう。ずっと望んでたことなのに、嬉しいはずなのに、なんでこんなにイライラするんだ。こんな感情、おれは知らない。
(ああ、ムカつく)

 *

「祥吾くん、またケンカしたの?部活辞めさせられたって本当なの?」
「ああ、つか赤司から聞いてねえのかよ。俺のポジションはリョータと交代だ。よかったな、もう俺に構わずリョータといれるな。」
「…なんで、そんな言い方するの?祥吾くん、何かあったの?」
「あのさ、2人のときだけ祥吾くんって呼ぶのやめてくんね?」
「祥吾くんが人前で名前呼ぶなっていったからじゃない。」
「だからって2人のときは名前で呼んでいいなんて一言も言ってねえよ。」
「ねえ、なんでそんなこと言うの?いつもはこんなこと言わないのに…」
「我慢してたんだよ。言ったらお前、ちっせえ時みたいにピーピー泣くだろうが。」
「そんなことっ!」
「誰も世話してなんて頼んじゃいねえんだよ。もう俺に関わるな。」

わざとキツイ言葉で話した、わざと冷たく突き放した。俺は泣きそうななまえの顔を見て見ぬふりで背を向けた。そして俺が一歩踏み出した刹那、腰回りにぬくもりが。首だけ振り返るとなまえが俺に抱き付いていた。

「私が勝手に名前で呼んでるの!勝手に祥吾くんの心配して、勝手にお節介焼いて、勝手に傍にいるの!これなら文句ないでしょ!?」

こんなに必死ななまえは初めて見た。こんな大きな声は初めて聞いた。昔から気弱でメソメソして、ずっと俺に引っ付いてて、俺に逆らったことなんて一度もなかったのに。

「なんで、なんでだ…」
「え?」
「俺は今まで、お前に危害が加わらないように遠ざけてきたのに、なんでお前は追いかけてくるんだよ。」
「祥吾、くん?」
「そうやって追いかけてくるから目つけられて、俺がそいつら追い払っての繰り返しになるんだよ。なんでそれが分かんねえんだよ!早く俺離れしてリョータのところでもどこへでも行けばいいだろ!?」
「いやだよ!離れたくない。黄瀬くんのとこにも行かない。祥吾くんの、傍にいたいよ…」
「だから、それがダメだって、」
「好きなの。」
「っ!」

なまえの声は、聞こえるか聞こえないかくらいの小さくて掠れた声だった。そこからだんだん嗚咽交じりに言葉を紡ぎ始める。

「小さい頃から、ずっと好きだったの。私、祥吾くんが、うっ…他の、女の子と、そ、そいうことしてるって…ふっく…知ってた、の…でもっ!そ、れでも、好きで、好きで…だから…っ!」

これ以上聞いていられなくて、俺はなまえを正面から抱きしめた。しばらくの間沈黙が続いた後、我にかえったなまえが慌てだした。

「し、祥吾、くん?」
「もうちょい、このまま…」
「は、はい。」

なまえの首筋に顔をうずめると少しくすぐったそうに顔を歪めた。シャンプーの甘い香りがする。昔から変わらない、なまえの匂いだ。

「なまえ。」
「な、なに?」
「……好きだ。」
「へっ!?」

俺が今までやってきたことを許してもらおうなんて思ってない。俺の中の価値観が変わったわけでもない。ただ、本能的に、放したくないと、思ってしまった。
仲間の信頼、自分の居場所、失ったものは決して小さくはないけれど、それを代価に一番大切なものが手に入った。

「もう、絶対離さねえ。」
「うん。私も、絶対離れない。」

顔を見合わせた俺たちは、どちらともなくキスをした。


    
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